07.パーティーを抜け出して
「レティシア、もしよければ、ここから抜け出しませんか?」
「え?」
まさかエルキュール様がそんなことを言い出すとは思わず、私は目を丸くした。
戸惑う私の手を取り、エルキュール様は颯爽と歩き出す。私は混乱しつつも、彼について行くしかない。
「あの、他の方々は……」
「ひととおり挨拶は済ませました。後のことは王にお任せしましょう。このパーティーの主催者は、アドルフ様です」
そう言って、エルキュール様は形のいい唇の両端をクイと上げた。
その表情が、子どもが悪戯を仕掛ける時のようなもので、私はまた更に引き込まれてしまう。
さっきからドキドキが止まらない。
私を攫おうとする敵と対峙している時と同じくらい心臓が激しく脈打ち、気持ちが高ぶっている。
そして──繋がれている手が、熱い。
どこをどう辿ってきたのか記憶が定かではないけれど、私たちはいつの間にかドラゴンがいる場所に来ていた。ということは、ドラゴンポートの近くなのだろう。
二頭のドラゴンがそれぞれ隣り合った部屋に入れられ、彼らはそこでのんびりと寛いでいた。しかし、人の気配を感じるやいなや、鋭い大きな目をギョロリと動かし、巨体に緊張を走らせる。
「ネージュ、シエル、俺だ」
二頭はエルキュール様の声と姿を認めると、一転して体を弛緩させた。緊張が解け、目つきも心なしか優しくなったように見える。
「レティシアは、ドラゴンに興味があるのだろう?」
エルキュール様に尋ねられ、私は思わず大きく頷いてしまった。
いけない、興奮するとすぐにこんな風に令嬢らしからぬことをしてしまう。
私があたふたと取り繕っていると、エルキュール様は優しい笑みを浮かべ、繋いでいた手をぎゅっと握りしめた。
「他人の目がない時は、素を出してもいい。私もさっき「俺」と言った」
「あ……」
笑いながら肩を竦めるエルキュール様に、胸がきゅんと締め付けられる。
こんな一面があるなんて知らなかった。それを今、この二人きりというタイミングで見せてくださるなんて。
──エルキュール様はずるい。
「ドラゴンに会うのは……私の夢でした」
「グリーンドラゴンには会えるだろう?」
「はい。でも私は、リバレイ領にいる三種のドラゴンに会いたかったのです。彼らは滅多に人を寄せ付けないと言われていますし、その姿は雄々しく、例えようもないほど美しいとも聞いていたので」
この世に生きる全ての生き物の頂点に立つ強さを兼ね備えている。彼らがひとたび暴れ出せば、国の一つや二つ、簡単に木っ端微塵になってしまうのだ。
何よりも強く、そして美しい三種のドラゴン。私はそのうちの二種を間近にしている。本当に夢のようだ。