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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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47-2.ノースディアの可能性(2)

 私たちは、ノースディアで一番多くの種類の薬草を栽培し、薬の加工技術も優れているという領民の家を訪れる。

 両親と娘が一人、息子が二人いる五人家族で、薬草栽培に長けているのが母親、父親がその薬草を薬にしているのだという。子どもたちも両親を手伝っているからか、薬草や薬の知識はかなり豊富だ。


「ここの土も悪くはないけれど、栄養が十分足りているとは言えないわね。薬草の育ち具合はどう?」

「育ちはするのですが、使い物にならないものも多くて。そういったものは、いつも勿体ないと思いながら捨てているんです」

「確かに勿体ないわね。せっかく育てたんですもの。全部薬として役立てたいわよね」

「そうなんです!」


 母親と娘、そして次男が薬草栽培の方を担当していて、私は彼らとの話に花を咲かせていた。

 やはりここの土の状態も完璧には遠く、改善の余地はおおありのようだ。


「今、リバレイ領の土を豊かにするために、いろいろ試しているの。幸い少しずつ効果が出ているから、今度栄養となる土を持ってくるわね。上手くいけば、今よりもずっといい薬草をたくさん育てることができると思うわ」


 私がそう言うと、側にいた男の子が大はしゃぎで手を叩いた。


「すごい! さすがは聖女様だ。聖女様が北の地に来てくれてよかった! レティシア様がシャルル様に取られなくて本当によかったよ!」

「マテオ!」

「いってぇ! ミリアンはいっつも殴る! 乱暴だ!」

「あんたが失礼なことばっかり言うからでしょ!」

「もう、二人ともいい加減にしなさい! レティシア様、騒々しくてすみません」


 マテオはわんぱくな男の子で、思ったことをすぐに口にするので困っている、と母親であるカーラが眉を顰めながら溜息をついていた。一人娘のミリアンもお転婆で手を焼いているらしい。

 でも、二人ともとても明るく素直で、ここへ来た時に感じた領民たちの表情の翳りは、この子たちには微塵も感じられない。子どもまで暗い顔をしているのは悲しいので、これは救いだ。


「いいえ。二人とも元気いっぱいで、私まで元気になれるわ」

「ほら! レティシア様もいいって言ってる! ありがとう、レティシア様!」

「マテオ! レティシア様から離れなさい!」


 私に抱きついてきたマテオを、ミリアンが引きはがそうとする。カーラはやれやれと額を押さえていて、私はカーラを気の毒に思いながらも楽しい気持ちになっていた。

 前の領主のことがあるから、距離を置かれるかもしれない、もしくは、受け入れてもらえないことも覚悟していた。それなのに、彼らはこうして私たちを歓迎してくれている。


「どこへ行ってもレティシアは慕われるのだな」


 家の中で父親であるエヴァンと、彼の技術を受け継ぐ長男のレニーと話をしていたはずのエルが、いつの間にか庭に出てきていた。


「申し訳ございません、エルキュール様!」


 カーラが慌てて頭を下げようとするも、それを制したエルはこちらに近付いてきて、マテオの頭をぐりぐりと撫でる。


「わぁ! エルキュール様っ!」

「レティシアを慕うのもわかるが、彼女は俺の妻だぞ」

「わかってるってばっ! エルキュール様! ちょ、ちょっと痛いって!」


 撫でるというには少々乱暴なエルの動作に、マテオはすぐさま私から離れて逃げようとする。でもすぐにエルに捕まってしまい、いいようにされていた。


「わああああっ」

「どうだ? 今度はこっちだ!」

「きゃはははは! くすぐったいよ!」


 マテオとじゃれているエルを見て、カーラもミリアンも目を大きく見開き、窓からその様子を眺めていたエヴァンとレニーは呆気に取られ、ポカンと口を開けていた。

 私もこんなエルを見るのは初めてで、嬉しくなると同時に胸が熱く高鳴る。

 エルはきっと、子どもが好きなのだろう。

 リバレイ領での政策も、子どもについては重要案件にしているようだし、身寄りのない子どもは孤児院で手厚く保護している。そこで、生きていくのに困らない程度の知識や教養も身につけることができるようにしている。

 そういえば、ノースディア領の子どもたちの様子も気にかけていた。保護すべき子どもがいないかどうか、騎士団を動かしてまで細かく調べていたことを思い出す。

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