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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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47.ノースディアの可能性(1)

 私とエルは馬車に乗り、ノースディア領を視察して回ることになった。

 ここは雪があまりないとはいえ、気温は低く、気候的にはリバレイ領とそう変わらない。

 しかし、決定的に違うことがあった。それは、領民たちの表情だ。

 リバレイ領では厳しい環境にあるとはいえ、彼らの顔は皆明るく、私たちにも気さくに声をかけてくる。エルはリバレイ領の人たちに慕われているから、私がやって来た時もとても温かく迎えてくれたのだ。

 けれどここの領民たちは、私たちを見ると気さくというよりも、恐れ多いというように深々と頭を下げてくる。表情は暗いというほどでもないけれど、リバレイの民と比べると生気に欠けている気がした。

 それをエルに話すと、これでも明るくなった方だ、という答えが返ってきて、私は彼らの過去に思いを馳せる。


「ノースディアの人たちは、これまで大変な思いをしてきたのね」


 窓の外を眺めながらそう呟く私に、エルも遠い目をして外を見遣った。


「最初に彼らに会った時は愕然としたな。皆、瞳は虚ろで、全身はやせ細っていて、そして住居は、とてもではないが寒さを凌げるものではなかった。まずは暖かな住まいが必要だと思ったから、貯蔵庫建設の合間に彼らの住居も整備した」

「よかった……。この寒さにずっと晒されるなんて、考えただけでも凍えてしまいそうです」

「あぁ。あと、まだ十分ではないが、彼らの生活も補助している。だが一番必要なのは、彼らが自らの手で生活していけることだ。この地についていろいろ調査しているが、リバレイ領のように鉱物が取れたりといったことは期待できそうになくてな。ならば、レティシアが今農業に力を入れていることもあるし、一度見てもらいたいとは思っていたんだ」

「はい! 私もぜひ見てみたいです!」


 エルの力に、そしてノースディアのために私にもできることがあるとわかり、気持ちが一気に上昇する。

 彼らの生活をもっと豊かにしたい。そうすれば、表情だって今よりずっと明るくなって、生気もみなぎってくるはずだ。

 ノースディアの民の満面の笑みを見たい。私は強くそう思った。


「これまで、彼らはどうやって生活していたんですか?」


 尋ねてみると、エルは丁寧に教えてくれる。


「彼らの家の庭には様々な薬草が植えられていてな、それを加工して薬にしている。各々の家庭で得意分野があり、それを持ち寄って、各地を渡り歩く商人たちに売っていたということだ。その収入を皆で分け合っていた。だから、ここの領民たちは誰かが突出して豊かということはなく、皆が同じような生活をしている」

「薬! 素晴らしいわ!」


 私は感動のあまり、叫んでしまった。

 薬は絶対に必要なものだし、質のよいものなら高値で売れる。彼らの作る薬がどの程度のものかはまだわからないけれど、その知識と技術があるのなら質を向上させることは可能だ。

 効果のある薬を作ることは、誰でもができることではない。それは突出した才能ともいえる。

 薬を作るレシピは門外不出とされているし、それをノースディアが持っているのであれば、これほどすごい可能性はない。

 他の作物を育てるのもありだけれど、まずは薬草の栽培をもっと充実させて、質のいい薬を作ることに注力すれば……。


「おそらく、レティシアも俺と同じことを考えているのではないか?」


 エルが私を見つめ、優しく微笑んだ。

 あぁ、そうか。私がすぐに考えつくようなことなのだから、エルだって考えないはずはない。


「はい。薬草の栽培を、庭レベルにしておくのは勿体ない……ですよね?」

「そのとおりだ」


 エルは破顔し、私の肩を抱き寄せた。私は微笑みながら、そっと身を委ねる。

 やることは決まった。

 まずは、誰かの家で育てている薬草を見せてもらおう。そして、土の状態も。それから、できれば薬を作る工程なんかも見せてもらえるとありがたい。

 私はエルとともに窓から見える景色を眺めながら、ノースディアの未来への期待に胸を膨らませていた。

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