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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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46.ノースディア領(1)

「グワゥ」

「ありがとう、シエル。もう一往復あるけど、よろしくね。あと、帰りもシエルに乗ってもいい?」


 シエルは嬉しそうに、きゅっと目を瞑った。

 私はファビアンの手を借りながら、シエルの背からノースディア領の地に降り立つ。


 ここはかつて、ボードレール家が治めていた地だ。

 しかし、彼らはセントラルで幅を利かせることに懸命で、北方のこの地はほとんどほったらかしにしていた。そのせいで、この地は荒れ、領民たちはかなり厳しい生活を強いられてきた。


「ここも寒いけれど、リバレイ領よりは少しマシかしら? 雪もそれほど積もっていないし」


 私が辺りを見渡しながらそう言うと、ファビアンもそれに同意する。


「はい。寒冷地ではありますが、ダイア砂漠との国境沿いということもありますので、幾分暖かいかと。雪が降ることもあまりないので、土もこのようにうっすらと白い程度です。ただ、朝晩の冷え込みは厳しいですよ」

「そうなのね」


 雪が降らなくても、冷え込みが厳しいと冬は大変だ。貧困に喘ぐ領民たちにとって、冬は試練の季節。でも今はエルの統治下にあるので、少なくとも以前よりは改善されているはず。

 エルはこの地を治めるようになってから、水の貯蔵庫建設とはまた別に、頻繁に足を運んでいた。領民たちの生活を少しでもよくするため、現状把握と様々な対策を施すためだ。


「レティシア様!」


 凛とした声がする方に顔を向けると、リバレイ第一騎士団の副団長であるアリソンが、こちらに向かって駆けてきていた。そして、私の前まで来るや、優雅に一礼する。


「お待ちしておりました。貯蔵庫の中で暖が取れるようになっております。エルキュール様もいらっしゃいますので、どうぞそちらへ」

「ありがとう、アリソン」


 私がアリソンの手を取ると、ファビアンが軽く頭を下げる。


「では、私はシエルとともに、もう一往復して参ります」

「えぇ。よろしく頼むわね、ファビアン」

「かしこまりました」


 今日は、リバレイ領を覆う大量の雪を、三頭のドラゴンで運んでいた。

 最初は一往復で済むという予想だったのだけれど、予想よりも雪が解けるのが早く、まだ樽に入れられそうだということになったのだ。

 補充する雪の量は、一回目よりも少ない。ネージュやフラムよりも、体の小さなシエルの方がいいだろうということで、シエルはもう一往復することになった。

 ファビアンは再びシエルに乗って、リバレイ領を目指す。


「ファビアン、シエル、よろしくね!」


 私がそう言って手を振ると、ファビアンは笑顔で会釈し、シエルは「グワォ!」と元気よく返事をして大空に飛び立った。

 今日はいい天気で、青空が広がっている。空の青と、シエルの体色の青。二つが美しく混ざり合って、溜息が出るほどの光景だ。シエルだけではなく、ネージュやフラムもだけれど、ドラゴンが大空を舞っている姿は本当に美しい。


「レティシア様は、本当にドラゴンたちがお好きなのですね」


 アリソンの言葉に、私は大きく頷く。


「えぇ。とても美しくて、とても可愛らしくて、彼らはこの国の宝物だと思うの」


 宝物であり、守り神でもある。

 彼らのおかげで、クラウディア国に侵攻しようとする国はないと言われている。ドラゴンたちに攻め入られれば、たちまちその国は滅んでしまうからだ。

 人知を超えた能力を持つ、聖なる獣。それが、ドラゴン。

 そんな彼らの信頼を得ているからこそ、クラウディア国は守られている。そして、彼らの信頼を得ているエルたちがいるから、クラウディアは強国でいられるのだ。


「それでは参りましょう」

「えぇ」


 私はアリソンに連れられ、貯蔵庫へと向かう。

 目の前には巨大な建物が鎮座していた。それはもう、圧倒されてしまうほどの。これほど大きな建物を、よく短期間で建設したものだと感心してしまう。

 というのも、この貯蔵庫は、リバレイ領とカミルたち砂漠の民、そしてセントラルから派遣された職人たちとの協同で建てられた。建設には、かなりの人員が割かれたと聞いている。

 私は立派な建物を見上げ、感嘆の息をつく。


「この貯蔵庫は、砂漠の民はもちろん、このノースディア領にとっても希望となるのね」

「はい」


 私の呟きに、アリソンが艶やかな微笑みを浮かべた。

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