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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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45-4.雪の恵み(4)

「あそこは国境とも近い。領地の端の端でもあるし、そこにどでかい倉庫を作った」

「えぇっ!?」


 カミルの言葉に、私は目を丸くした。

 いつの間に!

 でもそういえば、エルはいつも忙しそうで、帰りが遅いことが多かった。それに、騎士団が移動しているのもよく見かけたような……。

 そこで、ハッとした。

 だから、ファビアンはいつも私の側についていたのだ。エルが近くとはいえ、リバレイ領を離れている時間があったから。

 私はこっそりと笑みを浮かべる。

 エルは……本当に心配症だ。でもそれは、それだけ私を大切にしてくれているから。その気持ちが嬉しかった。


「その倉庫には、水を溜めておける巨大な樽がいくつもある。水の貯蔵庫だな。ここから、毎月決まった日に各集落に水を配給する」


 そうか。それで、砂漠の民は安定して水を得ることができる。

 これを条件に出されたら、他の頭たちもカミルたちに従おうという気になるかもしれない。カミルは彼らを抑えつけようとはしていないし、きっとわかってもらえるはず!

 すごい! 戦わずして、砂漠の民を統一できるなんて!


「その水は、リバレイ領から運ぶのね!」


 エルとカミルは頷いた。


「今の時期、雪は有り余るほどある。雪が少しでも減れば、こっちにも好都合だ。雪かきした大量の雪を倉庫に運び、樽に詰める。雪は次第に溶け、水になる。その水を飲料用としても使用できるようにする必要があるが、その技術は砂漠の民の方が長けているようなので、それはカミルたちに任せることにした。大量の雪は、ネージュとフラムに運んでもらおうかと思っている」

「シエルは?」

「シエルは二頭に比べて身体も小さいし、ネージュとフラムで事足りると思っているが……」


 それを聞いて、私はブンブンと首を横に振る。

 確かにそうかもしれないけれど、ファビアンは不満に思うだろう。

 私がチラリとファビアンを見遣ると、やはり思ったとおりだった。さすがに口を挟んではこないけれど、不満だと顔に書いてある。それに、シエルだってこれを聞いたら、絶対に機嫌を損ねる。


「それは、シエルだって納得しないと思います」

「だが……」

「シエルだけ何もしないのは、きっと寂しいと思うから……あ、そうだわ!」


 シエルを一番上手く操れるのは、ファビアン。でも彼は、私の護衛でリバレイを離れられない。シエルを使わないのはきっとそれもある。なら──


「私も雪を運びます! シエルに乗って」

「え!?」


 エルはもちろん、カミルも驚いている。ファビアンなんて、目が点になっている。でも、カミルはすぐに大笑いし始めた。


「あはははは! さすがレティシアは言うことが違うな! 自分からドラゴンに乗るだなんて」


 あぁ、カミルは知らないからだ。私が三頭のドラゴンと仲良しなのを。

 私は、カミルに自慢するように言ってやった。


「あら、私はネージュにもフラムにも乗ったことがあるわ。でも、まだシエルには乗ったことがないから、いい機会ね!」

「ええええ!?」

「そういえば……ことあるごとにそう言っていたな。ファビアン、お前は本当にシエル贔屓だからな」


 エルはやれやれといったように肩を竦めながら、ファビアンを見る。ファビアンは恐縮しながらも、それに頷いた。

 ファビアンったら、そんなにしょっちゅう言っていたなんて。よほどシエルが可愛いのだろう。でも、私もぜひシエルに乗ってみたい。

 私がファビアンを見ると、ファビアンは嬉しそうに顔をほころばせる。そんな私たちの顔を見て、エルは小さく笑った。


「レティシアもその気のようだな。ダメだと言っても聞きそうにない。……わかった。それじゃ、レティシアにも手伝ってもらおう。ファビアン」

「かしこまりました。ありがたき幸せに存じます」


 ファビアンが、かしこまって敬礼する。


「ありがとう、エル!」


 満面の笑みを浮かべた私を引き寄せ、エルが額に軽く口づける。

 その様子を見て、カミルが盛大に溜息をつき、ついでにチッと舌打ちした。その顔は思い切り不機嫌になっていて、申し訳ないけれど、私は声をあげて笑ってしまった。

 ファビアンはというと、もう慣れっこといった感じだ。そしてふと視線を動かした先には、ユーゴがいた。途中からすっかりユーゴのことが頭から抜けてしまっていた。

 そんな彼はというと、真っ赤になりながら、目のやり場に困ったように俯いていたのだった。

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