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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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45-3.雪の恵み(3)

 カミルは、砂漠の民の統一に最も効果的な武器は「水」だと言った。

 砂漠の民は、オアシスごとに集落を形成しているのだが、オアシスの水は無限ではないのだという。小さなところでは枯渇してしまうこともあるそうで、それが死活問題となっていた。

 枯渇してしまった場合は、別の集落に身を寄せるしかない。集落ごとに民の気質は違うので、合わないところだと村八分にされたり、追い出されたりといったこともあるのだという。

 カミルの治める集落が一番大きく、力も有しているということだが、他の集落の民がカミルに従うことはない。それぞれの自治で成り立っているし、力の大小はあれど、互いに干渉はしないということが暗黙のルールだからだ。

 でも、カミルはそんな砂漠の民を統一しようとしている。


「奴らを武力で制しようとしても、逆効果だ。その場で従えることはできても、すぐに裏切るだろう」


 彼らを下に従えるというより、それぞれの集落の頭と対等な関係を築いていく、とカミルは言った。


「とはいえ、これまでどおり好き放題させるわけにはいかないから、餌を用意する。それが水だ。水という資源は、砂漠では最強の武器だ。オアシスはいつ枯れるかわからない。皆、それを常に恐れている。だが、安定して水が手に入るという条件があれば、ある程度は統制できるはずだ」

「それでも、完全には無理なのね」

「これまで散々悪事を働き、やんちゃをしてきた輩だ。信頼関係を築くのは大変だし、それなりに時間がかかる。だが俺と頭たち、そして魔王との信頼関係が築ければこっちのものだ。後は問題ない。奴らは悪事を働いてきたが、それが生きるために必要だったからだ。魔王の下につくことが、自分たちが生きるための最大のメリットだと身を持って知れば、奴らは絶対に裏切らない。だから、まずは生きるために一番必要な資源を分け与える。……なにも、不要な血を流す必要はない」


 武器を取って戦えば、血が流れる。

 砂漠の民はお互いに干渉し合わないにしても、過酷な地で生きる仲間だ。カミルは、その仲間を傷つけたくないのだろう。


「水が必要なのはわかったけど、どうやって分け与えるの?」


 リバレイ領からダイア砂漠までは距離がある。ここからいちいち運ぶのは非効率のような気がする。

 そう思って尋ねると、カミルはエルと顔を見合わせ、ワクワクした子どものような目で私を見た。


「俺がレティシアを攫った地を覚えているか……といっても、わかるわけないか」


 私が攫われた場所。ルナと一緒に閉じ込められた、あの場所のことを言っているのはわかるけれど、そこがどこだったかなどわからない。

 わかるのは、リバレイ領の外だったことくらいだ。


「わからないわ。リバレイ領からはそれなりに離れてはいるけど、早馬なら数時間で辿り着けるほどの場所……というところかしら」

「あの状況でそこまでわかりゃ、たいしたもんだよ」


 時間的に考えて、それほど遠くまで移動はできなかっただろうし、あの場所も結構寒かった。リバレイ領ほどではなくても、寒冷地には違いないと思ったのだ。

 でも、ふと思った。

 カミルたちがあんなに簡単に潜伏できたのだ。あの地は管理が緩い。領主は何をしていたのだろう? 他国の者の潜伏を許すなんて、危機管理がなっていない。領民たちに危険が及ぶようなことがあれば、どうするつもりだったのか。

 その答えは、エルから聞くことができた。


「あの領地は、元々ボードレール家が所有していた。親族の者が治めていたようだが、ほとんどほったらかし状態だった。領民は皆貧しく、相当苦しんでいたようだ。だが、今回のことであそこは没収の対象となり、ボードレールの支配から外れた。クラウディア王家の所有になったが、セントラルから遠く離れていることもあり、治めるのは困難だ。というわけで、リバレイ領主、つまり俺に委託されることが決まった」


 ということは、あの場所は今後エルが管理することになる。

 領民にとっては、絶対にその方がいい。私も何らかの形で協力できればいいのだけれど。

 私がそういった気持ちでエルを見つめると、エルはわかっているというように、目を細めて微笑んだ。

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