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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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45.雪の恵み(1)

 本格的な冬に入り、リバレイ領は雪と氷に閉ざされる。

 私は相変わらず、土を豊かに成長させることに日々を費やしていた。

 最初は手探り状態だったけれど、最近では力を放出するコツも掴めてきて、なかなか順調に進んでいる。邸の敷地内に作らせてもらっている畑の土は、腐葉土の混ざった豊かな土に変わっていた。

 畑は大きく二分していて、ジャガイモやらニンジンなどの根菜を育てているエリアと、小麦を育てているエリアに分かれている。それに伴い、土にも工夫を凝らしていた。

 私が育てているのは、主に小麦だ。根菜の方はユーゴに任せている。ユーゴは自宅の畑でもそれらを作っていることもあり、とても手慣れているからだ。


「私の畑も、収穫の時期で二つに分けたんです。これまでと同じように収穫するエリアと、収穫を遅らせるエリアです。遅らせる方を多く取っています。レティシア様が立てられた仮説が正しいと証明されれば、こちらを売りに出せるのではないかと思いまして」


 雪の下で育った野菜は、甘く、美味しくなる。

 これが私の立てた仮説だ。私の中では、すでに仮説ではないのだけれど。

 でも、そういった野菜をたくさん作って試してみないことには、そう断言できない。偶然だった可能性もあるからだ。

 通常どおり収穫されたものとは比べ物にならないほど美味しくなった野菜は、必ず高値で売れる。私はそう信じている。だから、売り文句にするためにもこの証明は必要だった。

 販売が起動に乗れば、セントラルの高級な店はすぐに目をつけてくるだろう。もしかすると、王宮からも声がかかるかもしれない。

 そんなことを考えると、ついつい頬が緩んでしまう。


「そうね。でも、売りに出せたらいいなじゃなくて、出すの。絶対に高く売れるんだから! だけど、少しは残しておいてね。リバレイ領で暮らすたくさんの人たちにも、ぜひあの美味しさを知ってもらいたいから。知れば、自分も作ってみようと思う人が増えると思うの!」

「そうですね。そうしましょう」


 ユーゴもニコニコと笑っている。これまで苦労してきたことがもうすぐ実を結ぶのを、彼も心待ちにしているのだ。


「こちらの庭園に作られた畑も、最初に比べてかなり立派になりましたね」


 ユーゴは畑を見渡しながら、そう言った。

 最初は庭園の隅に小さく作った畑も、いまではかなりの面積を有している。  

 温室の隣に、屋根で覆われた面積の異なる畑が二つ連なっていた。小さな方が根菜用で、大きな方が小麦だ。屋根は手で開閉可能になっていて、雪が積もりすぎないよう調節している。


「本当は、近くに畑を作ろうと思ったのよ。庭園は庭園で、そのまま置いておくべきだと思ったし。でも、エルが許してくれなかったの。外に作れば、私がしょっちゅうそちらへ行ってしまうからって」

「邸の敷地内の方が、エルキュール様もご安心かと」

「もうそんなに危険はないと思うのだけど」

「油断は禁物ですよ、レティシア様」


 これまで私たちの話を聞きながら、黙々と手伝ってくれていたファビアンが、眉を顰めながら言った。


「ファビアン」

「危険は、忘れた頃にやってまいります」


 真面目な顔で、小さな子どもに諭すように言うファビアンは、すっかり私のお目付け役になっている。


「そうかもしれないけど」

「かもしれない、ではなく、そうなのです」

「……はい」


 仕方なく頷くと、ファビアンはうんうんと嬉しそうに首を振る。そんなファビアンを見て、ユーゴも私と一緒に微笑んでいた。

 するとその時、畑の入口が大きく開いて、冷たい風が勢いよく流れ込んできた。


「きゃあ! 早く閉めて!」


 ここへ来た時には穏やかに晴れていたのだけれど、今はかなり強く風が吹いている。

 畑には屋根があるし、風もある程度までは防いでくれる部屋のようになっていたので、扉が開くまでそれをあまり感じなかった。


「おっと、悪いな」

「え……」

「お前はっ!」


 扉を閉めたので、風はもう入ってこない。にもかかわらず、嵐が入り込んできた。

 褐色の肌に深紅の瞳、野性的な容姿を持ちながら、どこか品も持ち合わせたこの男。忘れもしない。というか、忘れられない。


「どうしてここに?」

「よう、レティシア。会いたかったぜ」


 私は目を丸くし、ファビアンはすぐさま警戒を強め、ユーゴは驚きと恐怖に震える。

 私たちの目の前にいたのは、元暗殺組織の頭、カミルだった。


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