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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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44-4.思いがけない発見(4)

「ユーゴ、あなたが持ってきてくれた野菜って、どんな風に育てたの?」


 ユーゴは私の質問に首を傾げつつ、特別なことは何もしていないと答えた。

 でも、そんなはずはない。普通に育てていて、こんな味になるはずがないのだ。


「じゃあ……他の土地は「ない」けれど、ここでは「ある」ってものはない?」

「あの……」

「レティシア、ユーゴが困っているぞ」


 見兼ねてエルが声をかけてきたけれど、エルもそれを知りたいように感じた。ううん、エルだけじゃない。この場にいる全員がだ。


「あのね、ユーゴ。ニンジンもジャガイモも、確かに小さいけれど、とても甘いの。まるで果物みたいだわ」

「それは、シェフの方の腕では……」

「ううん、そうじゃないわ。シェフの腕も一流だけど、下手にあれこれ手を加えたりしていないの。彼も、この野菜の味を生かしたいと思ったからだわ」

「……そうなのですか?」

「えぇ!」


 私が大きく頷くと、他の皆も同じように首を縦に振る。

 口に入れて咀嚼すれば、たちまち広がる優しい甘み。スープはそれを邪魔しないよう、シンプルに味付けされていた。


 私は幼い頃、野菜が苦手だった。それは、野菜特有の青っぽい匂いと味が、どうにも好きになれなかったからだ。だから、ブラン家のシェフは、私のために野菜の味がわからなくなるようあれこれと工夫をしていた。マリアンヌもやっぱり苦手で、同じようにしていたことを思い出す。

 さすがに今の私はそうではないけれど、それにしたって、このスープの野菜たちは特別だ。これなら、野菜の苦手な子どもだってそのまま食べられる。


「そういえば……」


 ユーゴがそう言った途端、全員がユーゴに注目した。

 ユーゴはぎょっとして引き気味になっていたけれど、なんとか堪えながら話してくれた。


「収穫が遅れてしまい、しばらく雪の下に埋まっていたのです。今日お持ちしたのは、雪をかき分け、土を掘り起こして収穫したものです」

「それだわ!」


 食事中に大きな声をあげるなんて、マナー違反もいいところだ。でも私は、それを抑えることができなかった。


「それ、とは……?」


 ユーゴは訳がわからないといったように、困った顔をする。

 私はユーゴを見つめ、確信を持って伝えた。


「他の土地にはなくて、ここにはあるもの。それは「雪」よ。もしかすると、雪の下で寒さに耐えた野菜は甘くなるのかもしれないわ。だとすると、これは大発見よ! ここで育てて収穫した野菜が、他で高く売れるかも!」


 ユーゴの目が大きく見開く。そんなことは思いもよらなかったという顔だ。


「ははははっ! レティシア様は、ドラゴンたちを従える強さと気高さを持ちながらも、商才もおありのようだ!」


 私たちのやり取りを聞いていたカミーユが豪快に笑い、アリソンとファビアンもカミーユほどではないけれど、同意するように微笑んでいた。


「雪の下で育つ野菜か。これはいい。これほど甘くて旨い野菜を食べたのは初めてだ」

「エル!」


 エルの目がキラリと瞬く。私と同じように、先を見据えていることが窺えた。


「ユーゴ、これからも農業の発展のために尽くしてくれ。援助は惜しまない。鉱石の採掘以外の産業が栄えれば、リバレイ領はより豊かになり、領民の暮らしも今よりずっと良くなるだろう。暮らしが豊かになり余裕ができれば、他の産業も生まれ、栄える。……頼んだぞ」

「はい!」


 ユーゴは感激していた。自分のやってきたことが、領主に認められたのだ。とても誇らしいだろう。

 私も嬉しかった。私の力が初めて役立つことが実感できたし、実はすごい力だったのだと気付くことができたから。

 エルにも聞いてもらいたいと思った。密かに抱えていたコンプレックスとともに、改めて聖女の力について話してみよう。エルはきっと、優しい微笑みを浮かべながら聞いてくれるはずだ。


 この後、私たちは楽しい時間をともに過ごす。

 シェフに言って、ユーゴの家族の分のスープを避けてもらい、持ち帰れるように別の容器に入れてもらった。

 それでも余ったスープの行方はというと──


「ここは公平に、カードで勝負しよう」

「望むところですぞ、エルキュール様!」

「私も負けません!」

「当然、勝ちに行かせていただきます」


 エルとカミーユ、ファビアンとアリソンで争われることになったのだった。

完全にストックが尽きてしまいましたので、更新は今後不定期になります。申し訳ございません。

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