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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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06.パーティーの最中

 ほとんどの貴族がエルキュール様と初顔合わせとなることもあり、パーティーの間中、私たちはずっと挨拶に明け暮れていた。

 といえど、私はおまけのようなものだ。ここにいる老若男女の興味は、すべてエルキュール様にある。

 挨拶がやっと一段落した頃、私は少し疲れてしまい、バルコニーで一人風に当たっていた。


「お疲れ様です、レティシア様。大丈夫ですか? お顔の色が少し優れないようですが……」


 柔らかな声に振り返ると、そこにはエルキュール様と一緒にドラゴンに乗ってやって来た、一人の騎士が心配そうな顔をして私を見つめていた。

 この人は、ブルードラゴンに乗っていた人だ。確か名前は、ファビアン・オルコット。青空に溶け込むような鮮やかな色のドラゴンを、自在に操っていた。

 私は、中型とはいえ大きなドラゴンを従えているにしては、物腰の柔らかい人だと思っていた。


 リバレイ領のドラゴンたちは、自分たちが認めた人間にしか心を許さない。

 ドラゴンが人を選ぶのだ。そして彼らが選ぶのは、心身ともに強い者。最強と謳われるリバレイ騎士団の中でも、ドラゴンを扱えるのは団長や副団長クラスの騎士に限られる。

 つまり、私の目の前にいる物腰柔らかで、顔だけを見ればとても騎士には見えないようなこの人は、騎士団でも上位にいるというわけだ。人は見かけによらないというけれど、まさにそのとおりだと思う。


「レティシア様?」

「あ、申し訳ございません。あまりにもたくさんの方々にお会いしたので、少し気疲れしてしまって。でも、もう大丈夫です」


 ファビアンに再度声をかけられハッとした私は、慌てて笑みを向ける。すると、ファビアンも安心したように笑顔になった。

 笑うと、ますます騎士には見えない。……本人には絶対に言えないけれど。

 でも、とても親しみやすそうな方だ。こうして私に声をかけてくれたのも、騎士としての義務というよりは、本当に心配だったからという気がする。立場など関係なく、ただ心配で声をかけてしまった、そんな印象だ。それがとても好ましかった。


「心配してくださってありがとうございます、ファビアン」

「いえ、とんでもございません。問題がないならなによりです。ですが、もし何かありましたら、すぐにお声がけください。近くに控えておりますので」


 ファビアンはそう言って小さく一礼し、この場を去る。その身のこなしは優雅でいて、隙がなかった。


「さすが……」

「何がさすがなのですか?」


 突然すぐ近くで声がしたので、私は飛び上がりそうになる。

 全く気配を感じなかった。人が近づいても気付かないなんて、ほぼありえないことなのに。

 私はそろりと反対側を向く。そこには、美しいプラチナブロンドの髪を靡かせているエルキュール様がいた。


「エルキュール様……」

「驚かせてしまったようですね」


 エルキュール様がほんの少し眉を寄せる。

 これほど存在感のある方がすぐ側に来ていたというのに、それに気付かないなんて。


「いえ、大丈夫です。でも、エルキュール様もさすがです。我が国最強といわれるリバレイ騎士団を率いるだけのことはあると、私は今、とても感動しております」

「あぁ……あなたは常に危険に晒されている方だから、気配を感じなかったことに驚いたのですね。それは申し訳ないことをしました。一言声をかけてから近づくべきだった」


 私は僅かに目を見開きながらも、首を横に振った。

 別に隠しているわけでもないから、私が普通の公爵令嬢、そして守られるだけの聖女でないことは誰もが知っている。そして、エルキュール様もやはりご存じなのだと思った。

 エルキュール様は、私の身の上を知った上で求婚した。それはもしかしたら、王命だったのかもしれないけれど。それでも──。


 ブラン家は、王家とも親しく近しい仲。それで、第一王子のシャルル様と私との婚姻を進めようとしていたにもかかわらず、婚約破棄という事態。

 それでも私を王家と縁続きにしたかったのだろう。アドルフ王もセレスティーヌ妃も、私をとても気に入ってくださっていたから。

 それに、私は聖女でもある。聖女との婚姻は、王家にとって非常に重要なことだ。

 そういった諸々の背景はあれど、エルキュール様は私を望んでくださった。

 これまでどんなに素晴らしい縁談が持ち込まれようが、頑なに断り続けていたというのに。私なら、と望んでくださった。

 この方は、私が「淑やかじゃないから嫌だ」などとは決しておっしゃらない。大抵の敵は一人でどうにかできてしまうそんな私の実力を、エルキュール様はおそらくすでに把握されている。


「いいえ。相手に気取られない、それは、エルキュール様が優れた武人だということでもあります。……私が先ほどさすがだと申し上げたのは、ファビアンのことです。立ち去る際、身のこなしが優雅であるにもかかわらず、隙がありませんでしたので」

「隙が……そうですか。さすが、その言葉、そのままあなたにお返ししましょう、レティシア」


 エルキュール様の表情が緩み、晴れやかになる。それがまるで、冬を越した花々が、春になって一気に咲き誇るかのようで、私は瞬時に引き込まれてしまったのだった。


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