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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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44-3.思いがけない発見(3)

 邸に戻ると、セシルが出迎えてくれ、私たちを食堂へと案内する。


「セシル、エルはまだお仕事?」


 私が尋ねると、セシルは「もう食堂にいらっしゃいますよ」と答えた。

 私たちが留守にしていた間の報告を、カミーユとアリソンから聞いていたとのことだから、もしかするとその二人もいるかもしれない。


「失礼いたします。レティシア様が戻られました」


 食堂には、エルとカミーユ、アリソンがすでに着席していた。

 私とファビアン、ユーゴが続いて中に入る。ユーゴは緊張のあまり、ガチガチになっていた。


「ユーゴ、そんなに緊張しなくてもいい。まぁ、緊張するなという方が無理かもしれないが、気にするようなことは何もないから安心しろ。それより、貴重な野菜を分けてくれたらしいな。礼を言わせてくれ。本当にありがとう」


 エルがユーゴに笑みを向けると、ユーゴはペコペコと何度もお辞儀をする。

 ひたすら恐縮しどおしのユーゴだけれど、席に着く前にふと小さな声で呟いたのを、私は聞き逃さなかった。


「嬉しい……」


 エルは最大限の感謝を表していたし、カミーユとアリソンも、普段は見せないような笑顔になっている。領民にとって憧れの三人に喜んでもらえたのだから、嬉しくないわけがなかった。

 もちろん、ファビアンだって第三騎士団の騎士なのだし、カミーユやアリソンと同様に憧れの存在。ファビアンもニコニコと喜んでいるので、ユーゴも嬉しいだろう。でも、一緒にいる時間が長いせいか、そんな感覚も薄れてしまっている気がする。


 ファビアンは、とにかく親しみやすい。最初こそ緊張していたユーゴも、すぐに慣れて話が弾むようになったくらいだ。だから、私の護衛としてファビアンは最適な人物だった。いまや専属と言っていいかもしれない。

 護衛といっても、カミルたちが配下に入った今、邸の敷地内では本当はもう必要ないのだけれど、私が敷地内とはいえ外に出る際には、護衛についてくれる。エルもそれを望んでいるのだそうだ。

 自分の身は自分で守れるけれど、前のように身内が人質に取られでもしたら、私は動けなくなる。またあんなことがあるとは思えないけれど、念には念をというエルの気持ちもよくわかるので、私はありがたくファビアンについてもらうことにしたのだった。


「レティシア、少し頑張りすぎたようだな。加減をしろといつも言っているのに」


 私の顔を見るなり、エルが溜息をつきながらそう言った。

 私は小さく肩を竦めながら大丈夫と言うけれど、エルの顔はほんの少しだけ不機嫌になっている。そんなエルを見て、カミーユとアリソン、ファビアンは苦笑いを浮かべていた。

 でも、テーブルの上にスープが並べられると、その表情は一変した。エルだけではない。ここにいる全員の顔が、キラキラと輝いた。

 湯気の立ち上るスープからは、とてもいい匂いがした。見た目も美しく、とにかく美味しそうで……。


「それでは、早速いただこう」


 エルのその一声で、皆が一斉にスプーンを手に取った。

 野菜がゴロゴロと入ったスープから、ニンジンを掬い、口に入れる。その瞬間、私の手が止まった。


「レティシア様、どうかされましたか?」


 ユーゴが心配そうに私を見つめる。私は僅かに首を振り、今度はジャガイモを口に入れた。

 あぁ、やっぱり──。


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