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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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44-2.思いがけない発見(2)

 落ち葉を少しずつ土と混ぜ、力を注ぐ。しばらくして、中身を切り返す。それを何度か繰り返すと、落ち葉の形がなくなってきた。


「レティシア様、今日はこのくらいにしておきましょう。セントラルからお戻りになられたばかりですし、ご無理はされませんよう……」


 ユーゴとファビアンが揃ってそんな風に言うものだから、私は作業を中止した。

 もうほとんど出来上がっている状態だし、仕上げをしたかったのだけれど。  

 でも、二人の言うように無理は禁物だ。ここで私が倒れでもしたら、逆に迷惑をかけてしまう。


「そうね。この分だと、明日には完成していると思うわ」

「はい。今の状態でもとても柔らかく、ふかふかの土になっています」

「ありがとう。上手くいってよかったわ。それじゃ、明日は残り半分のエリアを、セントラルから持ってきた土を加えて馴染ませていきましょう。そこに出来上がった腐葉土を混ぜるの。どんな風になるのか楽しみだわ!」


 聖女の力を使ったせいで少し疲れたけれど、明日のことを考えるとそんなことなど忘れてしまう。疲れよりも、ワクワクする期待が上回るのだ。

 どんな土になるだろう? セントラルに負けないくらい、豊かな土になるといい。その土を大量生産して、ここで農業を営んでいる人たち皆に分け与えることができれば、リバレイ領でもたくさんの作物を育てることができるに違いない。


「レティシア様、邸に戻りましょう。シェフが温かいスープを用意しているとのことです」

「そうなの? 嬉しいわ!」


 雨風が凌げる屋根があるとはいえ、ここは外だ。多少は冷える。

 身体を動かしていたのでそれほど寒くはなかったけれど、温かいスープはありがたい。


「ユーゴが、ニンジンやジャガイモを持ってきてくれたそうですよ」

「持ってきたといっても、立派なものではありません。うちで作ったものなので、形も悪いし、小さいのです……。ですが、レティシア様にぜひ食べていただければと思い、持参いたしました」


 ユーゴはしきりに恐縮しているけれど、これはすごいことだ。

 リバレイ領で作物を育てることはとても困難で、食べられる段階まで持っていける人はそうそういない。ここでの農業は、まだまだ試験段階なのだ。

 それなのに、食べられる作物を育てただなんて!


「すごいわ、ユーゴ! それじゃ、ユーゴの作ったニンジンとジャガイモが入ったスープなのね」

「はい。シェフが腕によりをかけると言っていましたので、楽しみですね」


 ファビアンの言葉に、私の頬は緩みっぱなしになる。楽しみすぎて、子どものように踊りだしたくなってしまった。


「それじゃ、ユーゴにもぜひ食べていってもらわなきゃね。できれば家に持って帰ってもらいたいから、皆、おかわりはなしね」


 悪戯っぽくそう言うと、ユーゴが大慌てで両手をブンブンと振る。


「いえいえ! 私の家のことなどお気になさらないでください」

「遠慮しないで。明日からもたくさん手伝ってもらうのだし、それに、うちのシェフの腕は一流よ? ユーゴや奥様、ルナにもぜひ味わってもらいたいわ」

「おかわりなしは残念ですが、ユーゴの家族の分は必要です。我慢しましょう」


 真面目な顔でうんうんと頷くファビアンを見て、私とユーゴは声をあげて笑ってしまう。

 ファビアンは、ちゃっかり食べていくつもりのようだ。

 もちろんそのつもりだったけれど、つい意地悪をしたくなってしまい、私はこう言った。


「あら? ファビアンは誘っていないわよ?」


 するとファビアンは、これでもかというほど眉を下げ、情けない顔をする。


「そんな! いつもお茶をご馳走してくださるじゃないですか!」

「お茶はね。でも、スープは別でしょう?」

「レティシア様……」


 騎士らしからぬファビアンの顔に、私はお腹を抱えて笑った。ユーゴも悪いとは思いつつも、笑いを堪えきれないようだ。


「嘘よ。ファビアンも一緒に決まっているでしょう? それじゃ、邸に戻りましょう」


 私の言葉に、ファビアンはぱぁっと表情を輝かせ、急いで畑の出入り口まで行き、布を捲り上げる。


「どうぞ、レティシア様」


 入る時もそうしてくれたのだけれど、今はスープにつられてのように見え、私はまた笑ってしまったのだった。


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