44.思いがけない発見(1)
セントラルの秋には、そこら中に落ちている木の葉。
これを少しずつ土と混ぜていくことで、土の環境を良くしてくれる腐葉土を作ることができる。
私はそれを作りたくて、落ち葉がパンパンに詰められた麻袋をいくつも持ち帰った。
「これほどの量とは思いませんでした」
邸に来てくれたユーゴは、積みあがった麻袋を見ながらそう呟いた。
腐葉土のことを教えてくれたのは、ユーゴだ。
落ち葉ならここでも集めることはできるけれど、リバレイ領の木の葉は適さないらしい。それならと、セントラルに行く予定のできた私が、そこの落ち葉を集めて持ち帰ることを約束したのだった。
「葉っぱを砕いて混ぜるのかしら?」
私がユーゴに尋ねると、ユーゴはいいえ、と首を横に振る。
「砕かなくても、ここに穴を掘ってそのまま入れて構いません」
「腐葉土とは、そんなに簡単にできるものなのか?」
護衛についてくれているファビアンが、目を丸くして驚いてる。
私だってそうだ。まさか、そのままでいいなんて。
「数カ月放置して、少しずつ土と混ぜていきます。それを繰り返すと、自然に葉の形がなくなっていきます。更に長い時間をかけると、完全に形はなくなり、土と混ざってわからなくなります。そして、黒っぽく良い匂いがするようになれば、腐葉土の完成です」
「長い時間って、どれくらい?」
「そうですね……半年から一年というところでしょうか」
一年!
それなりに時間がかかるとは思っていたけれど、そんなにかかるとは思わなかった。
でも、自然とはそういうものだ。
「作り方は簡単でも、なかなか大変なのだな」
ファビアンは感心しながらも、僅かに眉を顰めている。
それぞれに複雑な表情をする私たちを、ユーゴは恐縮するように見つめていた。その顔は「すぐに結果が出なくて申し訳ございません」とでも言っているようだ。
私は大きく頭を振る。
ユーゴに気を遣わせてどうするの。
私は一転して笑顔になり、ユーゴとファビアンを元気づけるように言った。
「長い時間を短縮するわ」
「え!?」
そう、こんな時のために、私の力はあるのだから。
「聖女の力で成長を促すの。葉と土が十分に混ざり合うようにイメージすれば、上手くいくと思うわ」
「なるほど。成長させるということは、時間を進めることと同じなのですね」
ユーゴの言葉に、私は大きく目を見開いた。まるで、天啓を得た気がしたのだ。
今まで考えもしなかったし、気付きもしなかった。
私の聖女としての力は、時間を操るといった側面を持っていたのだ。
「それは……全く気付きませんでしたね」
ファビアンも放心したように呟く。
私たちを見て、ユーゴだけはオロオロして、すみませんすみませんと何度も謝っている。おかしなことを言ってしまったと思っているのだろう。
私はユーゴに微笑みかけ、ありがとうとお礼を言った。
「違うのよ。私はこれまで、自分の力をそんな風に考えたことがなかったから、ユーゴの指摘にハッとしたの。ユーゴの言ったことは正しいわ。育成する、成長させるということは、時間を進めることと同じだわ」
「おかしなことを言ってしまったかと思いました」
「ううん。考えてみると、これはすごいことだわ。先代の力には及ばないかもしれないけれど、ちっぽけな力だと卑屈になる必要もなかったんだってわかった。本当に驚いたわ。ありがとう、ユーゴ」
私の言葉に、ユーゴは顔をほころばせる。
王家が聖女を大切にしていないなんていう誤解は、エルの話ですっかり解けていたけれど、聖女としての力は先代よりも劣っていると常に感じていた。表には出さないけれど、密かに私の中でコンプレックスになっていたのだ。
だけど、そんな風に思う必要はなかった。ずっと抱えていた心の重荷が、きれいさっぱり消えてなくなった気がする。
私は二人に向かって、満面の笑みを向けた。
「それじゃ、始めましょう」
「はい!」
ユーゴとファビアンが畑のスペースの半分ほどを使って穴を掘り、三人で落ち葉をそこに敷き詰める。これで準備完了だ。そして、ここからが真の私の出番。
「上手くいきますように」
私は心の中でそう祈りながら、ゆっくりと手の平を落ち葉に翳し、聖女の力を注いでいった。




