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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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43.温かい気持ち

 リバレイ領へ戻ってくるなり、エルは騎士団から留守の間の報告を聞くため、すぐさま執務室に向かった。

 私は、ドラゴン舎に寄ってから邸に戻ることにする。

 残っていた二頭のドラゴンの様子も知りたかったし、フラムを労りたかったこともあった。でも、フラムは大した疲れも見せず、ご機嫌のまま舎に入っていつもの体勢になる。

 ネージュとシエルはというと、私の姿を見つけるやいなや、穴があくほど見つめ、無言のアピールをしてきた。

 声を出すと私がひっくり返ってしまうから、遠慮しているようだ。今はエルがいないということも、二頭はきちんと理解していた。

 でも、今はファビアンが側についてくれている。仮に二頭が声を出して私が飛ばされそうになっても、ファビアンが助けてくれると思うのだけれど。

 もしかして、ファビアンじゃ私を支えられないと思っている? だとすると、少し気の毒だ。

 私がファビアンを見て小さく笑うと、彼は不思議そうに首を傾げた。

 私はそれには構わず、ネージュの舎へ近づき、声をかける。


「ネージュ、ただいま。お留守番をしてくれてありがとう」


 体の鱗を撫でると、ネージュは嬉しそうに瞳をまばたきさせる。

 シエルにも同じように言葉をかけると、シエルは慎重に頭を動かして私を正面から見据えると、きゅっと目を瞑る。その仕草がとても可愛らしくて、私は笑顔になった。

 この辺りは触っていいものだろうか。

 ファビアンに尋ねるより前に、私はシエルの口元辺りをそっと撫でてみる。

 ファビアンは仰天していたようだけど、無闇に大声をあげたりはしない。いきなり大きな声を出すと、ドラゴンたちが驚いて暴れだしかねないからだ。

 でも、ファビアンの心配は杞憂に終わった。シエルはおとなしく目を閉じている。


「こんなところも触らせてくれるのね。可愛いわ。ありがとう、シエル」


 私の声に反応し、シエルは目を開ける。澄んだ瞳が私を捉え、そしてまたきゅっと閉じた。


「グルルル」

「グゥ……」


 異なった二つの唸り声に振り返ると、ネージュとフラムがこちらを見ながら唸っている。


「やれやれ。シエルだけ贔屓するな、とでも言いたげです」


 二頭を見ると、なるほど、そんな風に見えなくもない。


「私にとっては三頭とも可愛いし、大切なのに」

「シエルだけは、まだレティシア様を背に乗せたことがないというのに。それはまた別のようですね」


 ファビアンが溜息をつきながらそう言った。

 シエルに一番懐かれているファビアンだからこその言葉だ。

 それもなんだか可愛らしくて、私はファビアンをまぁまぁと宥めながら、もう一度ネージュを撫で、次にフラムを撫でて二頭の機嫌を直してもらい、ようやく舎を出たのだった。


 邸に戻ると、待ち構えていたようにセシルが私を捕獲し、部屋に放り込むなり、あれこれと世話を焼いてくれた。

 セシルが淹れてくれた温かいジンジャーティーは、身体を芯から温めてくれる。


「美味しい……」

「生姜は身体にいいですし、寒い土地では重宝されているそうです。蜂蜜も入っていますので、味もまろやかになっているかと」

「蜂蜜! そうだったのね。とても優しい味だわ」


 セシルは私の膝にブランケットをかけながら、気遣うように声をかけてきた。


「レティシア様、今日は戻ってこられたばかりでお疲れでしょう。早めにお食事を取られて、もうおやすみになられた方が……」


 心配そうなセシルに微笑みかけ、私は首を横に振った。

 馬車なら相当疲れただろうけど、フラムに乗って戻ってきたのだからさほど疲れてはいない。それに、エルは早速仕事をしているというのに私だけ休むなんて、それも嫌だった。


「私、セントラルから持ち帰った土を試してみたいわ。いえ、先に落ち葉を細かく砕いた方がいいかしら? 土に混ぜると栄養になるみたいなの!」

「あの大量の袋の中身はそれでしたか!」

「えぇ!」


 セシルは呆れたように肩を竦め、吐息する。

 セシルはクローゼットを漁り、作業用の衣類を用意し始めた。すでに衣替えは終わっているようで、中はもこもこした温かそうな服でいっぱいだ。


「あら、とても温かそうね。これなら外で作業しても問題ないわ」


 洋服を手にしてそう言うと、セシルは聞き分けのない子どもに言い聞かせるように、私に念を押した。


「レティシア様、わかっていらっしゃると思いますが、エルキュール様のお許しが出たらの話ですからね!」

「もちろんよ」


 でも、セシルはこうして準備をしている。エルが私に押し切られるのを見越しているようだ。


「では、エルキュール様にお伺いしてまいります」

「ありがとう、セシル」


 セシルが部屋を出て行った後、私は残りのお茶を飲み干し、窓の外を確認する。

 雪はちらついている程度で、これなら作業できそうだ。そして、畑を確認して驚いた。


「雪が積もっていると思っていたのに!」


 庭園の隅にある小さな畑には、水に強い素材であろう布が覆われていた。支柱が何本も立っていて、屋根のようになっている。


「ユーゴがやってくれたのかしら? それとも、セシルが?」


 頬が紅潮する。

 あの畑ことを、私以外の誰かも同じように大切に思ってくれていることが嬉しかった。

 気持ちを高ぶらせながら待っていると、セシルが戻ってくる。諦めたような顔をしているところを見ると、エルからのお許しが出たようだ。


「セシル! 畑に屋根があったわ! あなたがしてくれたの?」


 尋ねると、セシルはハッと目を見開き、恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「レティシア様の大切な畑ですから、雪に埋もれてしまってはいけないと思って、ユーゴに相談したんです。そうしたら、屋根を作ってくれて。だから、中は無事ですよ」


 あぁ、やっぱり二人がやってくれたんだ。

 私は嬉しくてたまらなくなり、子どものようにセシルに抱きついてしまったのだった。


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