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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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42.白銀の世界(1)

 リバレイ領に帰る前に、私にはどうしてもやりたいことがあった。それは、セントラルの畑の土を分けてもらうこと、そして、落ち葉をできるだけたくさん集め、リバレイ領へ送ることだった。

 リバレイ領の土壌改良が難航していたので、いろいろなことを試してみたかったのだ。肥沃な土地であるセントラルの土を加えることで、何か効果があるかもしれない。落ち葉は、腐葉土を作るために必要なものだった。

 腐葉土は土の排水性や通気性をよくしてくれるし、保湿や保温効果もある。冬季には雪と氷に閉ざされるリバレイ領には必要不可欠なのではないかと思った。

 本当に効果があるのかはまだわからないけれど、試行錯誤している段階では、何でもやってみるべきだと私は考えていた。


「これがリバレイ領に届くのは、いつ頃になるのかしら……。少なくとも一週間はかかるわね」


 土が入っている袋が十、落ち葉の入った麻袋が二十。それらを眺めながら溜息をついていると、エルが不思議そうに首を傾げた。


「フラムに乗せて運べば、すぐだぞ」


 私は目を丸くしてエルの顔を見上げる。エルは何ということもない顔をしている。

 私は大きく首を横に振り、そんなことはできないと言った。


「落ち葉はともかく、土は重いんです。それが十袋もあるんですよ? 私たちも乗るのに、フラムが大変です!」


 人が二人乗るだけでも大変だと思うのに。

 そう思って眉を下げると、エルがさもおかしそうに肩を震わせながら笑った。


「どうして笑うんですか!?」

「いや、悪い。レティシアの優しさが愛らしくてな」


 そう言って、エルが私の肩を抱き、こめかみに口づける。

 優しい? 今度は私が首を傾げる番だ。


「優しくなんてありません。普通に考えたらすぐに思い当たることです」


 私の言葉に、エルが首を横に振る。


「レティシアには、フラムがどんな風に見えているんだろうな。あれほど大型のドラゴンなんだぞ? これくらいの荷物などなんでもない。フラムが一声鳴けば吹き飛ぶほどの重さだ。むしろ俺は、これだけでいいのかと思ったぞ。この倍の量でも、フラムはさほど重さを感じないだろう」

「……そうなんですか?」

「あぁ」


 エルは自信を持って頷く。

 私だって、フラムの大きさは認識している。でも、空を飛ぶのだ。大荷物を背に乗せて飛ぶなんて重労働だと、つい人の視点で考えてしまうのは仕方がないと思ってほしい。

 でも、エルがそう思っているだけで、フラムの本音は重くて嫌だなと感じているかもしれない。そう思った私は、エルに提案してみる。


「それじゃ、フラムに直接聞いてみてもいいですか?」

「フラムに?」


 まさか、当人ならぬ当ドラゴンに聞いてみるなんて言葉が返ってくるとは思わなかったのか、エルはますます肩を震わせた。


「レティシアは面白いな。……わかった。フラムに聞いてみよう」


 申し訳ないけれど、様々な人の手を借りて、ドラゴンポートに土と落ち葉の入った袋全てを運んでもらい、私とエルはフラムと顔を合わせた。

 フラムはゴォ、と鳴いて、会えた嬉しさを伝えてくる。私は静かに近づき、フラムの鱗を撫でた。


「フラム、待たせてごめんなさいね。もうすぐリバレイ領に帰るわ。それでね、一つ相談があるの」


 私がそう言うと、フラムは私の言葉がわかるのか、大きな瞳をまばたきさせる。

 「いいよ」と言ってもらえたと判断し、私は言葉を続けた。


「あなたの目の前に、袋がたくさんあるでしょう? あれには、土と落ち葉が入っているの。葉っぱは軽いけど、土は重いわ。土の袋は十個あるんだけど、フラムの背に乗せて運ぶことはできそう?」


 フラムは再びゴォ、と鳴いた。さっきよりも勢いがあったせいで、私は吹き飛ばされそうになる。

 それに備えていたエルのおかげで事なきを得たけれど、構えていてもこうなってしまうことが少し悔しい。エルみたいにもっと踏ん張れるといいのに。

 そんなことを思っていると、今度はエルがフラムに問いかけた。


「この倍でも、フラムなら問題ないな?」

「ゴォ!」


 また吹き飛ばされそうになる。そんな私を見て、フラムはしまった、というような反応を見せた。

 ネージュもシエルもそうだけれど、ドラゴンたちは本当に頭がいい。心許した人間に対し、こうした気遣いを見せてくれるのだから。

 私はフラムをよしよしと何度も撫でる。気にしなくていいからね、と小さく囁くと、フラムはきゅっと瞳を閉じる。


「フラムは、これが倍になっても全然問題ないと言ったぞ。土はもっとあった方がいい。増やそう」

「……そうですね。それじゃフラム、土はあと十袋増やすわね。ありがとう」


 フラムは、今度は私を吹き飛ばさないために、瞳だけで応えてくれた。

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