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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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41-4.秘めた想い(4)

 エルは言葉を区切り、深く溜息をついた。

 エルはその時を思い出しているようで、辛そうに表情を歪めている。それが私も辛くて、思わずエルの両腕を引いた。


「レティ……」


 私に腕を引かれ、エルが身を屈めた瞬間、私はそっと唇を押し当てる。

 そんな顔をしないで。私はここにいる。あなたの側に、ずっといるから。

 私の想いが届いたのか、エルの表情が和らいでいく。しかし次の瞬間には、エルに深く口づけられていた。呼吸さえ奪うようなそれに、私の頭は朦朧とする。


「俺は一度、レティシアを諦めた。王太子妃になるレティシアを、俺が妻として迎えることなど夢のまた夢だ。諦めるしかなかった。だが……」


 私は、シャルル様から婚約破棄された──。


「それこそ夢かと思った。まさかそんなことが本当に起こるなんて、想像もしていなかった。一生分、神に感謝した気がするな。レティシアは傷ついていただろうに、俺はこの婚約破棄を喜んでいたんだ。……こんな俺を、軽蔑するか?」


 口づけの後、息も絶え絶えになりながらエルを見つめる。深いブルーグレーの瞳が、頼りなげに揺れていた。


 なんということだろうか。

 私はこれほどまでに強く、エルに想われていた。とても、とても長い間、エルはずっと私を想い続けていてくれたのだ。

 ──信じられないくらい、嬉しい。


「軽蔑なんて、するわけがありません」

「レティシア」


 私は真っ直ぐにエルを見つめる。

 あの婚約破棄は、普通ならありえないことだった。シャルル様がそれを望んだとしても、王と王妃が簡単に許すなど本来はありえないことだったのだ。しかし、婚約破棄は成立した。

 それは、エルを心から愛し、精一杯支えていきなさいという神様からの思し召しだったのかもしれない。ううん、きっとそうだ。


「私はブラン家の長女で、聖女だから、愛する人との結婚は諦めていました。シャルル様のことは決して嫌いではなかったけれど、恋愛感情を抱くことはできませんでした。私が初めて恋をしたのは……エルだったんです。そんな自分の気持ちを自覚した時、私も婚約破棄になってよかったと思ってしまいました。……こんな私を、軽蔑しますか?」


 エルは即座に首を横に振る。そして、長い指を私の頬に滑らせ、目尻に口づけを落とす。

 知らぬ間に零れていた雫を唇で吸い取り、微かな音を立てて離す。悪戯っぽく微笑みながら私の顔を覗き込むエルに、私はつられるように笑った。


「愛している、レティシア」

「私も……愛しています、エル」


 私たちは、お互いの額を重ね合わせる。互いのぬくもりが伝わり、心を満たしていく。

 爽やかな風に揺れる美しい花々から、芳しい香りが匂い立ち、私たちを覆っていった。その幻想的な空間に佇み、私たちはそのまま動けなくなる。

 とても──幸せすぎて。


「帰ろう、レティシア。リバレイ領で皆が待っている」


 そうだ。リバレイ領では、たくさんの大切な人たちが私たちの帰りを今か今かと待っている。

 セントラルには、慈しみ育てられた大切な場所がある。それでも、今の私の居場所は、遥か北の最果ての地、リバレイ領なのだ。


「はい、帰りましょう」


 私はエルを見上げ、最上級の微笑みを向けた。

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