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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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05-2.魔王の来訪~気高きドラゴンとともに~(2)

 そして、いよいよ婚約パーティーの当日。

 朝からセントラルは大騒ぎとなった。遥か上空に、二頭のドラゴンが現れたからだ。


 クラウディア国において、ドラゴンは決して珍しいものではない。

 この国がこれほど栄えている要因の一つは、ドラゴンの住む地を有しているから。

 しかしそうは言っても、騒がせていた二頭のドラゴンは、その中でも特別な種だった。


 私たちが普通に目にするのは、小型のグリーンドラゴンだ。その名の通り、体全体が緑色をしている。目は大きく真ん丸で、可愛らしいとさえ思える容姿をしている。

 ドラゴンなのでそれなりに大きいけれど、ドラゴンの中では小さい。そして人に慣れやすい種だ。セントラルから少し離れた大きな森に群れをなして暮らしている。

 人に慣れやすいということもあり、グリーンドラゴンを操る人もいて、人や荷を運んだりもする。グリーンドラゴンたちは、私たち「人」ともっとも近い距離にいるのだ。

 でも、その他のドラゴンは別だ。滅多なことで人には慣れないし、その姿を見ることもない。

 クラウディア国には、グリーンドラゴンの他に、ホワイトドラゴン、レッドドラゴン、ブルードラゴンが住んでいる。でもこの三種のドラゴンが暮らす地は、北方のリバレイ領だった。このドラゴンたちは暑さに弱いらしく、セントラルまでがギリギリらしい。これより南に行くには厳しいと言われている。


「なんと美しい……」

「まるで雪のような白、そして、空と同化してしまいそうな鮮やかな青!」


 そう、セントラルの上空を飛んでいたのは、ホワイトドラゴンとブルードラゴン。

 ブルードラゴンは中型だけど、グリーンよりもかなり大きく見える。でもホワイトドラゴンは更に大きい。大型といわれるホワイトドラゴンは、空を覆うかと思うほどに大きく、その体はまさしく雪のように真っ白だった。

 二頭のドラゴンは王宮内にあるドラゴンポートへと降り立っていく。途轍もなく大きな体にもかかわらず、身のこなしはあくまでしなやかで、とにかく美しかった。


「ようこそおいでくださいました、エルキュール様」


 宰相のルクス様が、エルキュール様と、一緒に来られた騎士を出迎える。

 そして、ルクス様の隣には私もいた。

 本当は王の間で初顔合わせとなるはずだったのだけど、私が無理を言ってここまでついてきたのだ。


 周りの目が少ないところで、まずは挨拶を交わしたかった。それに──リバレイ領に住むというドラゴンに会ってみたかったということもある。

 実は、エルキュール様がドラゴンに乗ってセントラルに来られることは、事前に聞いていた。そして、彼が乗るのはもっとも人に慣れないと言われる気位の高いホワイトドラゴン。数も少なく、とても希少な種。エルキュール様が側にいなければ、間近で見ることなど到底叶わない。


「久しいな、ルクス」

「もう少し顔を見せてほしいと、王も常々申されております。もちろん、私も同じ思いでございますよ」

「わかった、わかった。だが、北方からここまでどれだけあると思っている。いつもネージュに乗って、とはいかないんだぞ」

「そうでございますね。それでも、こうやってお顔を拝見することができ、とても嬉しく存じます」


 ルクス様は本当に嬉しそうに顔をほころばせている。エルキュール様の態度からも、お二人の親しさが窺えた。

 その時、エルキュール様が私の方を見て、僅かに瞳を大きくする。彼と目が合った瞬間、私は呆けてしまった。


 見事なプラチナブロンドの髪、シャープだけれど凛々しい輪郭、形のよい眉に、切れ長の鋭い瞳はブルーグレー。鮮やかというよりは深く落ち着きのある色。

 背は高く、鍛えられた体躯のせいで更に大きく見える。その彼が近づくと、また更に大きい。圧倒されそうだ。

 私は挨拶することも忘れ、呆然とエルキュール様を見上げてしまった。

 すると彼は、優雅な身のこなしで片膝をつき、私の右手を取る。美しく形の整った唇が近づき、甲に触れた。その瞬間、呼吸が止まる。

 手の甲にキスなど、これまでにも何度もあった。それなのに、まるで初めてそうされた時のように胸がざわめく。いや、初めての時よりもよほど強く──。


「レティシア・ブラン嬢、この度は私の求婚に応えていただき、誠にありがたく存じます。お初にお目にかかります、リバレイ領領主、エルキュール・リバレイと申します」


 その深いブルーグレーに見つめられ、私の心臓は暴れ出し、身体中の血液がものすごい勢いで駆け巡る。体温が上がり、身体もだけれど、特に頬が熱い。こんなのは、初めてだ。

 私は必死の思いで心を落ち着かせ、何とか自分の名を名乗る。少し声が震えていたかもしれない。

 そんな私を見て、エルキュール様の口角がほんの僅かだが上がる。


 「氷の国の魔王」とはよく言ったものだ。

 整った顔立ちにほとんど変わらない表情。一見すると冷たく、近寄り難い。 

 でも、心の底から冷たいわけではない。エルキュール様を間近にして、そう直感した。


 まだ完全に緊張は解けないけれど、私は精一杯の微笑みを浮かべる。すると、エルキュール様の口角がまた上がった。

 ──嬉しい。

 こんな風に思うのも、私にとって、また初めての経験だった。

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