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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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39.閉廷

 エルがカミルたちの上に立つ?

 エルを窺い見ると、僅かに口角が上がっている。

 カミルたちは一瞬呆気に取られていたけれど、やがて納得したように頷いた。


「魔王なら問題なさそうだな。だが、俺は魔王よりもむしろ……」


 カミルはそう言うなり、私の方を振り返った。

 精悍な顔と向かい合い、私の心臓がドクンと音を立てる。カミルの視線は、真っ直ぐに私を貫いていた。


「聖女に従う」

「……っ」


 思わず息を呑むと、私を庇うようにエルが僅かに前に出る。

 カミルに向ける視線は冷ややかだ。でも、恐ろしいまではいかない。と言っても、エルをよく知らない人が見れば、その場に凍りつきそうなほど鋭利ではあるけれど。

 本気で怒ってはいない。でも、少し苛ついているかもしれない。

 そんな風に密かに分析していると、カミルはクッと喉を鳴らした。おそらく彼も、エルが本気で牙をむいているわけではないことを察したのだろう。


「俺はレティシアを気に入っているんでな。願わくば、自分のものにしたかったんだが……」

「口を慎め。命が惜しくばな」


 エルがカミルに言い返そうとしたところを遮ったのは、なんとアドルフ王だった。やれやれと呆れた表情で双方を眺めている。

 王が止めに入ったとなると、それに従うしかない。エルは不服そうな顔をするけれど、これ見よがしに私を引き寄せ、カミルを睨みつけた。


「エル!」

「レティシアは俺の妻だ。それを見せつけるしかないだろう? 本当はもっとあからさまに見せつけてやりたいところだ」


 周りには聞こえないようにボソボソと話す私たち。

 でも、王宮騎士団の一部には聞こえてしまったみたいで、彼らは少し動揺した顔を見せる。笑うわけにはいかないし、でもおかしいしで、反応に困ったのだろう。

 私よりもずっと大人で余裕があるように思っていたけれど、こんな風に子どもっぽい一面を見せてくれるエルを、可愛らしいと思ってしまう。と同時に、とても愛しくなる。

 だって、氷の国の魔王と呼ばれるほどに沈着冷静なエルが、私が絡むとそうではいられなくなる。それほどまでに想われている。それをひしひしと感じずにはいられないから。


「わかったよ。だが、魔王と聖女の意見が分かれることがあった場合、俺たちは迷わず聖女につく。……聖女を愛し崇める国は栄える。俺たちはその言い伝えを強く信じている。与えられた豊かさの上に胡坐をかき、聖女をいい加減に扱っているこの国よりもずっと。砂漠の民は、聖女レティシアをこの上なく大切にする。何よりもだ」


 心臓が大きく跳ねる。カミルの強い視線が私を捕らえ、私は再び息を呑んだ。だが今度は、エルも負けじとカミルに言い返す。


「この国より、砂漠の民より、私の想いが勝る。何故なら、レティシアは聖女である前に一人の人間、一人の女性であり、私の最愛の妻だからだ」


 ものすごい熱が私の頬から噴き出すような気がした。

 裁判所の中はシンと静まり返り、時が止まったようになる。しかし、すぐさま大きな笑い声がこだました。


「あはははは! これは一本取られたな!」

「頭……そろそろこの辺で」

「負けず嫌いもほどほどに。魔王に対抗心を燃やしても仕方がない」


 アシムとスードに窘められても、カミルはしばらく笑い続けていた。そしてようやく笑いを収める頃には、ヒィヒィと息を乱し、肩で息をしていた。……笑いすぎだ。


「ここで誓う。俺たちは、必ずや砂漠の民を統一する。その後は、砂漠の民、クラウディアの善良な民を、様々な脅威から守ろう」


 一転して、力強い声でそう宣誓したカミルに、王と裁判官は大きく頷く。そして、裁判官は閉廷を告げた。


「終わった……」


 裁判所を出る頃には、私は何もしていないにもかかわらず疲れ切っていた。緊張もあっただろうし、張りつめていた糸が切れたような感じだ。

 エルはそんな私をさりげなく支えてくれる。見上げると、優しい笑みとぶつかった。


「まさか、こんな結末になるとは思わなかったです」


 そう言うと、エルもそうだな、と同意する。


「俺も、こんなにすんなりと主張が認められるとは思わなかった」

「え? エルがこの判決を?」


 エルは照れたような顔をし、裁判所を振り返った。


「彼らをただで死なすには惜しいと思ってな。彼らのしたことは決して許されることじゃない。だが、砂漠の民の問題を知らずにいた俺たちにも責任がある。それに、彼らと協力しあえば、大きなことを成し遂げられると思ったんだ。砂漠の民が安心して生きていけるようになれば、暗殺組織は自然に解体される。また新しい組織ができるかもしれないが、それは砂漠の民ではない。それに、例え他の暗殺組織がこの国を脅かそうとしても、彼らが追い払ってくれるだろう。その行いは彼らにとって償いであり、クラウディアにとっては善となる。双方にとっていいことづくめだ。そう思わないか?」

「……思います」


 私は彼らに攫われた身だけれど、彼らを憎む気にはなれなかった。犯した罪は重いけれど、正直に言えば……死んでほしくはなかったのだ。だから、この結末は本当によかったと思う。

 ボードレール家とベルクール家についてはお気の毒としか言えないけれど、彼らの場合は自業自得ともいえる。何とか気持ちを立て直し、再出発してくれるといいのだけれど……。

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