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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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35-5.暴かれる悪事(5)

「やれやれ、この国の王太子はとんだ間抜けだな」


 カミルのその一言に、場の空気が凍る。

 シャルル様は目をつり上げ、カミルを思い切り睨みつけた。とはいえ、すぐさま返り討ちに遭う。カミルの一睨みの方が、何十倍も迫力があったのだ。


「そこのあばずれ女があれこれ喚きたてているが、ボードレール家の依頼も受けているぞ。しかも、一件や二件じゃない」

「我がボードレール家を侮辱するとは、貴様、どうなるかわかっているのか!」


 ついに痺れを切らしたボードレール公爵が、カミルを指差しながら怒鳴り始める。リゼットはそのとおりだと言うように、何度もコクコクと頷いていた。カミルはというと、相変わらず飄々としたものだ。


「俺たちがどうなるかなんて、捕らえられた瞬間からわかっているさ。だからこの際、影に隠れてこそこそしているお前らのようなクズを、この場に引きずり出してやろうと思ってな。だって不公平だろう? 俺たちは死刑台行きで、お前らは何のお咎めもなし? 冗談じゃない」

「ベルクール家はともかく、うちは関係ない!」

「何をおっしゃっているのですか、ボードレール公爵!」


 ボードレール公爵は、仲間であっただろうベルクール公爵を冷たく突き放し、挙句の果てには奈落の底に突き落とした。


「ルベンはかつてうちで働いていた。しかし、今ではベルクール家の人間だ。その彼がこの忌まわしき暗殺者に関わっていたというのだろう? 暗殺の依頼など、一介の使用人の判断とはとても考えられない。ベルクール家が聖女の暗殺を依頼したのだよ。それは、覆しようのない真実だ!」

「ボードレール公爵!」

「何故私たちまでこの場に呼ばれたのか、全くわかりかねますな。この辺で失礼させていただいてもよろしいかな?」


 ここはさっさと逃げるべき、ボードレール公爵はそう判断したのだろう。でも、ここにいる皆がそれを許すはずもない。


「それは困りますね」


 ボードレール公爵は、その声の主をギラリと睨みつけた。


「いくらエルキュール様といえど、失礼にも程がありますな」


 しかし、エルはそんな言葉など全く意に介さない。それに、カミルも皮肉げな笑みを浮かべながら、こう言い放った。


「お前らは証拠などないと思っているんだろうが、ちゃんと残してあるよ。依頼された日、内容、報酬金額、全て記録してある」


 その言葉にボードレール公爵は一瞬たじろぐが、それでもすぐに立ち直って言い返す。


「それがボードレール家からの依頼だという証拠はない!」

「さっき、魔王が言っただろう? 部下に後をつけさせて、確認していると。俺の部下は、何度かお前の邸に行っている」

「嘘をつくな!」

「信じなくてもいいさ。それに、お前だけじゃない。そっちのベルクールだっけ? そちらにも行っているし、その他の豪商や貴族たちの邸にも俺たちは足を運んでいるんだ。そしてそれはこの国だけじゃない。周辺諸国だって俺たちのお得意様だ。……ったく、どいつもこいつもロクなもんじゃねぇな。邪魔なものは消す。金さえ積めばどうにでもなる。本当にロクなもんじゃねぇわ」

「うるさい、うるさい、うるさいっ! お前らこそ、金を積めば人を殺す殺人鬼のくせに! 人間の皮を被った悪魔め!」


 ボードレール公爵はすっかり我を忘れ、聞くに堪えがたい言葉を吐いていく。

 これが貴族? しかも、上位である公爵家当主の言葉? ──品性をどこかに落としてきてしまったらしい。いや、元々持っていたのかどうかさえ怪しい。


「もういい! 黙れ!」


 王は額を押さえ、頭を振っている。醜い言葉の応酬が堪えたようだ。

 そして、エルに向かって再び問いかける。


「エルキュール、そなたの真の目的はなんだ? こんなものを見せたかったのではないだろう?」


 エルは深く頭を下げ、まずはこの醜態を詫びた。その後、王の言葉を肯定する。


「もちろんでございます。王、私は彼らが何故、暗殺を生業にしているのかを知りたいのです。その理由がわかれば、元を絶てるかと」

「理由だと?」

「はい。今仮に、彼ら三人を死罪にしたとしても、組織は新しい頭を立てるでしょう。そしてまた同じことが繰り返される。それでは意味がありません」

「理由がわかれば、解決すると言うのか?」

「……正直に申し上げますが、それは私にもわかりかねます。ですが、私が彼らに理由を問うた時、お前一人に言ったところでどうにもならない、と彼らは答えました。ならば、王の前ならどうかと尋ねました。それでもどうにもならない、と彼らは言いました。ですが、私はそうは思いません。慈悲深く、賢王と称えられるアドルフ王ならば、どうにもならないことなどない、私はそう信じているからです」


 王は眉を顰めながらも、静かに目を閉じる。エルの訴えにどう対応するかを逡巡しているのだろう。

 それにしても。


 先ほどのエルの言葉はもちろん本音だろうけれど、ここまで言われてアドルフ王は彼らをただ死罪にして終わらせるだろうか。それができるだろうか。

 ──答えは、否。

 そしてそれは、私の思ったとおりになった。


「エルキュール、そなたの訴えを聞き入れよう」

「ありがたき幸せに存じます」


 エルは恭しく頭を垂れる。

 でも、私は見てしまった。エルは頭を下げながら、密かに口角を上げている。

 エルもこの展開を予測していたのだ。ううん、こうなるよう仕向けたのだ。私はそれを確信した。

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