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05.魔王の来訪~気高きドラゴンとともに~(1)

 シャルル王子との婚約破棄に続き、エルキュール公との婚約。様々な憶測も飛び交い、社交界はしばらくこの話でもちきりだった。

 でも、思ったよりも醜聞とはなっていないようで、それだけは本当によかったと思わずにいられない。そもそも事の発端はシャルル様なので、私、そしてブラン家への配慮があったのだろう。


 シャルル様は私との婚約が解消された後、ボードレール家の令嬢と正式にお付き合いを始めたという。ボードレール家は、ブラン家に次ぐ名門だ。

 ボードレール家の公爵令嬢、リゼットは、まさに令嬢を絵に描いたような容姿をしている。美しくてかよわく、淑やかな……というのはあくまでも表向きの話で、裏の顔を持っているのだけれど。

 取り巻きを引き連れて、自分よりも弱いものを見下すようなところがあり、私は彼女をとても苦手としていた。そんな彼女は、私の存在を良く思っていなかったようで、今回の件でかなり上機嫌になっているのだという。

 私はセントラルから遠いリバレイ領へ向かう。彼女からすれば、それは王都からの追放のように思えるのだろう。

 まぁ、そんなことはどうでもいいのだけれど。私としては、彼女と今後顔を合わせなくていいのだから、むしろホッとする。


 そんなこんなで、社交界や王都セントラルはしばらくの間、騒がしい状態だった。しかしそんな中、更に騒々しくなるようなことが発覚する。

 なんと、エルキュール様がセントラルまでやって来ることになったのだ。王はエルキュール様と私の婚約パーティーを開くことを決め、彼はそれを承諾したという。社交の場には一切出ない彼も、さすがにこれは拒否できなかったのだろう。


「貴族たちは連日大騒ぎだよ。あのエルキュール様を拝見できるのだからね」

「どんな方なのか、皆様興味津々といったご様子ね。私もお会いできるのが今から楽しみだわ」

「私もお会いしたかったわ……。ねぇ、お母様、私も出席できないかしら?」

「マリアンヌ、あなたはまだ社交マナーを完全にマスターしていないでしょう? 出席するにはまだ早いわよ」

「レティ姉様! お姉様からもお願いして!」


 お父様とお母様は本当に楽しみだというように頬を緩めている。こんな顔をされれば、自分も! と思うのは仕方のないことだ。しかし、まだ十歳のマリアンヌには、社交界は厳しい。

 私はマリアンヌと目線を合わせ、彼女のふわふわとした柔らかい髪を撫でながら言った。


「マリアンヌ、今回は我慢してちょうだい。いつか……エルキュール様と一緒にあなたに会いに来るから」


 マリアンヌだってエルキュール様に会いたいのだ。その気持ちはよくわかる。

 エルキュール様がセントラルに来る機会はあまりない。ましてやパーティーに出席するなど、今後あるかどうかも怪しい。この機会を逃せば、ずっと会えないかもしれないのだ。気軽にお互いを行き来するなど、果てしなく難しいことなのだから。


「本当に?」

「えぇ。いつになるかはわからないけれど、いつか、必ず」

「絶対よ? 約束して、レティ姉様」

「約束するわ」

「……なら、我慢するわ」


 渋々という体で、マリアンヌは小さく頷く。そんな妹が可愛らしくて、私はついマリアンヌを抱きしめてしまった。彼女も私にぎゅっとしがみついてくる。

 素直で可愛いたった一人の妹。両親もとても可愛がってはいるけれど、一番は私かもしれない。

 マリアンヌを抱きしめながら、この子ともそうそう会えなくなってしまうのだと思い、寂しさに胸が押し潰されそうになった。

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