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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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35-4.暴かれる悪事(4)

「馬鹿なこと? それはこちらのセリフだ」


 この声に、場が騒然となる。何故なら、これを言ったのはエルではないから。

 口を開いたのは、カミルだった。


「犯罪者は黙っていろ!」

「ふーん。それじゃ、あんたも黙らなきゃいけないってわけだ」

「何をっ!」

「ベルクール公爵、口を慎め」

「も……申し訳ございません」


 アドルフ王の命令に、ベルクール公爵は縮み上がりながら口を閉ざす。

 王は、カミルに向き直った。


「お前は、ベルクール公爵の依頼で聖女を攫ったのか?」


 その問いに、カミルはそうだと頷いた。


「と言っても、本当の依頼者はおっさんか娘のどちらかはわからねぇ。だが、娘の側にいるあの男が俺たちに依頼してきたことは確かだ。こちらの要求に足る報酬を持参してな」


 そう言って、ルベンを指差す。

 この場にいる全員の視線がルベンに集まり、彼は顔面蒼白になっている。彼に支えられているミシェルの顔色も、青いを通り越して白くなっていた。

 その上、カミルは更に言い募る。


「そいつ、ルベンって言うんだろう? 聖女、レティシア嬢がそう呼んでいた」


 よけいなことを!

 ルベンに集まっていた視線が、今度は私に向けられる。

 さすがに青くはならないけれど、とんでもなく居心地が悪い。でもそれを顔に出すわけにもいかず、私はなんとか心の平静を保った。


「レティシア、そなたは、ルベンをその目で見たというのか?」


 王にそう尋ねられ、私は正直に答える。

 隠すことなど何もない。ありのままの事実を述べる、ここに来る前に、エルにそう誓ったのだから。


「はい、見ました。私は粗末な小屋のような場所に捕らわれていました。そこへ、ルベンがやって来たのです」

「そなた、ルベンを知っていたのか?」

「はい。一度、ボードレール家にお招きいただいた際、彼の姿を見かけたことがございました。懸命に働く姿が印象的で、よく覚えております」


 本当は、リゼットに振り回されてお気の毒だと思っただけ。でもそこはぼかしておいた。

 そうすると、今度はリゼットが叫び声をあげる。


「ルベンはもうボードレール家とは関係ありませんわ! 紛らわしいことをおっしゃらないで!」


 誤解されると困ると思って声をあげたのだろうけれど、その金切り声に驚いたのはシャルル様だ。大きく目を見開いていらっしゃる。

 リゼットはおしとやかで貞淑で控えめな女性を演じていたのだろうから、まさかこんな大声をあげるなんて想像もつかなかったのだろう。

 シャルル様の顔を見て、リゼットは明らかに、しまったという顔をしている。


「ち……違うのです。私はただ……誤解されたくなかったのです。お願いです、信じてください。ボードレール家は何の関係もございません」


 今度は、か細く震える声でそう言った。

 この変わり身の早さに、思わず呆気に取られてしまう。


「わかっているよ、リゼット。君は必死に家を守ろうとしているんだね。わかっている、私にはわかっているから。だから落ち着いて、リゼット」

「シャルル様っ!」


 リゼットの豹変にいち早く立ち直ったのは、シャルル様だった。

 すごい、完全に騙されている。

 落ち着かせるような優しい声に、甘い表情。そしてリゼットは、涙をポロポロ零しながら、今にもシャルル様の元へ駆け出さんばかりだ。

 しかし、そうやって盛り上がっているのは本人たちばかりで、周りの人間の顔はというと、ひたすら「無」だ。心の中では呆れ返っているのがよくわかる。

 リゼットの芝居に乗せられているのは、シャルル様だけだった。

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