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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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35-3.暴かれる悪事(3)

 エルは堂々と王と裁判官を見据え、よく通る声で事実を述べていく。


「ここにいる被告人三名は、暗殺組織でも上位の者たちです。特に彼、カミルは、組織のトップに君臨しております」

「それはそなたからの報告で、すでにわかっておる」


 王の言葉にエルは大きく頷き、後を続けた。


「彼は非常に慎重な男であり、依頼人自身がその素性を隠していたとしても、必ず身元の確認をしておりました。実際に依頼をして報酬を渡した者というよりは、その影に隠れた()()()依頼人についてです」


 再び辺りがざわつき始める。といっても、ざわついているのはボードレール家とベルクール家のみ。他の人間は皆、エルの話に聞き入っている。


 それにしても驚いた。カミルが依頼人の素性を確認していただなんて。

 慎重というより、狡猾といった方がいいかもしれない。だって彼は、依頼人の素性を掴んでおいて、何かの折にはその弱みに付け込もうという魂胆があったのだろうから。暗殺組織のトップというからには、そういった下心は絶対にあったに違いない。

 カミルの表情は飄々としており、ううん、むしろエルの話を楽しそうに聞いている。

 たいした度胸だ。アシムは緊張した面持ちで、そしてスードは相変わらず無表情のまま、成り行きを見守っている。


「どうやって真の依頼人を突き止めたのだ?」

「部下に後をつけさせたのですよ」


 エルが王の問いに答えると、ざわめきはピタリとやんだ。代わりに、息を呑む音がいくつも聞こえる。

 どうやら、二家とも心当たりがあるらしい。少なくともベルクール家の方は、私がルベンを確認してしまっているので確実も確実だ。ただそれを、当主が知っているかはわからないけれど。


「組織はこれまでの全ての依頼において、実際に依頼に来た人物、そして真の依頼人のことを記録しています」

「犯罪者の戯言を信じるのですか!」


 エルはこれまでとは逆の方を向く。

 話を遮ったのは、意外にもボードレール公爵だった。

 ここで声をあげるなんて、何を考えているのだろう? 自分は関わりがありますといわんばかりだ。

 野心が強く、弱い者を蹴散らし、汚い手でのし上がってきた彼らしい。その目は血走っており、ギラギラと飢えた獣のようだ。

 両家とも、奥方はここに召集されていない。おそらく無関係と判断されたのだろう。でも、それぞれの娘たちは召集されている。なんとなく複雑な気持ちだ。

 エルは、ボードレール公爵に肯定の意を示した。


「馬鹿な!」

「その記録を実際に確認しました。後で王と裁判官にもご覧いただきますが、かなり信憑性のあるものです。直近で起こった聖女の誘拐、これを依頼した者の名前も、しっかり書き留められておりました」

「エルキュール、その者の名を」

「かしこまりました。それは……ベルクール家の娘、ミシェル嬢でございます」

「ああああああっ!」

「ミシェル様!」

「ミシェル!」


 ミシェルが大声で叫び、フラフラと倒れる。側にいたルベンがミシェルを支え、ベルクール公爵は激しく狼狽えている。


「何を、何をおっしゃっておられるのですか、エルキュール様!」

「ミシェル嬢でなければ、あなたでしょうか?」

「馬鹿なことを言うな!」


 ベルクール公爵は逆上し、エルに向かって粗野な言葉を吐く。完全に我を失っている。

 ボードレール家の方はというと、自分たちは免れたとばかりに安心しきった顔をしていた。それを見て私は呆れてしまう。

 どうして自分たちがここへ呼ばれたのか、彼らはまだわからないと見える。ベルクール家の姿は、次の我が身だというのに。

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