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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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35-2.暴かれる悪事(2)

 裁判が行われる建物内は、ひんやりと冷たい空気に覆われていた。辺りは静まり返っていて、私たちの足音だけが響く。

 決して暗くはないのに、暗澹たる気持ちになってくる不思議。それは、これから行われる裁判が、厳しいものになるとわかっているからだ。


「レティシア、心の準備はできているか?」


 その場所に入る前に、エルが私に尋ねる。


「はい。私はありのまま、事実だけをお話します」


 裁判官より前に、エルに誓う。

 エルは大きく頷き、私の手を取った。


「行こう。全てを明らかにする」


 広間には、様々な顔ぶれが並んでいた。

 裁判官はもちろんだけれど、アドルフ王に、王太子シャルル様、宰相のルクス様、そして王宮騎士団のトップも勢揃いしている。

 そして、カミルとアシム、スードの姿も被告席に見えた。

 驚いたのは、宰相や王族とは逆側の席に、ボードレール家とベルクール家がいたことだ。それぞれの当主に、リゼットとミシェルもいた。彼女たちは真っ青な顔で震えている。ミシェルの隣には、ルベンもいた。

 私はエルを見上げる。でもエルは何も言わず、私を指定された席へと誘導し、座らせる。


 異様な空気に息が詰まりそうになる。私でこれなのだから、リゼットやミシェルなど倒れてしまうのではないだろうか。

 そう思ってもう一度彼女たちを見るけれど、二人は青い顔をしたまま気丈に振舞っていた。それが、自分たちは何も悪くない、どうしてここへ呼ばれたのかわからない、必死にそう言い聞かせているように見える。


「時間だ。始めてくれ」


 王の言葉を受け、裁判が始まった。

 まずは聖女、つまり、私を攫った罪についてからだ。

 罪状を告げられ、それについて被告人の三人はそれぞれに答えていく。

 全員、間違いのないことを認めた。あまりにもあっさりと認めたので、私は拍子抜けしてしまう。

 万が一認めなかった時は、私が事細かに真実を述べることになっていたのだけれど、その必要はなくなった。


「……よかった」


 誰にも聞こえないよう、小さく呟く。

 いざとなれば、堂々と洗いざらいぶちまけるつもりではいたけれど、したいかしたくないかで言えば、したくないに決まっている。だから、彼らがおとなしく罪を認めてくれたことに、心からホッとした。


「お前たち暗殺組織は、これまでも多くの人間を殺めてきた。決して許されることではない。故に、その罪は……」


 ちょっと待って! もう判決が言い渡されるの? 早すぎない? それに、暗殺組織を動かした人間のことは?

 思わず腰を浮かすと、エルが私の腕を引いて椅子に座らせる。その代わり、自分が立ち上がり、裁判官の言葉を止めた。


「お待ちください」

「エルキュール様、どうされました?」


 裁判官が訝しげな顔をする。

 エルは、ボードレール家とベルクール家のことを裁判官に話していないのだろうか。

 私がハラハラしながら見守っていると、エルは裁判官にこう言い放つ。


「人を殺めることは大罪です。ですが、それを依頼した者はどうでしょう?」

「それは、判明しているのでしょうか」

「はい」

「その者たちが白状したのですか?」

「はい」

「彼らが嘘をついている可能性は」

「ありません」


 はっきり言い切ったエルに、裁判官が眉を顰める。

 辺りは一気にざわめき、騒然とする。しかし、王の一喝によって瞬く間に元の静けさを取り戻した。

 アドルフ王は、エルに向かって問う。


「何故そう言い切れる? そして、何故お前はボードレール家とベルクール家をこの場に呼び寄せた?」


 アドルフ王の視線は鋭い。

 いくら息子同然に可愛がっている甥とはいえ、ここで間違いは許されない。

 王もその理由は明かされていないのだろう。それでもあの二家にここへ来るよう命じたのは、エルを信じているから。

 エルは自信に満ちた笑みで、それに応えた。

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