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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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34.王都・セントラルへ

 ようやく私は外へ出られるようになり、ユーゴと農業を再開させていた。あれこれと今後の方針を話し合っていたところ、邸に戻っていたエルに呼び戻される。

 今朝出て行く時には何も言っていなかったので、不思議に思いながら邸に戻ると、エルが私の顔を見るなり言った。


「急だが、セントラルへ行くことになった」

「え……何かあったのですか?」


 エルがセントラルへ赴くなら、それは王家に何かあったということ。

 しかし、エルは私を安心させるように微笑み、首を横に振る。


「心配しなくていい。王家に何かあったわけじゃない」

「よかった……そうですか」


 私はホッと胸を撫で下ろす。

 なら、どうして……?

 エルは表情を引き締め、その理由を私に告げた。


「暗殺組織の三人をセントラルまで護送し、裁判にかけることになった」

「護送……」


 背筋がゾクリとする。

 捕らえられた三人、カミルとアシムとスードは、今は牢に入れられている。三人はそれぞれに取り調べを受け、おとなしく応じているらしい。でもそれは、そうするしかないからだ。

 常に監視の目があり、隙などない。仮に牢を出られたとしても、あっという間に騎士団に再び捕らえられてしまうだろう。

 たった三人では何もできない。今の状態では、仲間を呼ぶこともできない。彼らはおとなしくしているしかないのだ。

 でも、セントラルへ連れていくとなれば?

 彼らを牢から出さなくてはいけない。そして、セントラルへ向かう道すがらには、いくらでも隙ができるだろう。万が一彼らが仲間と連絡を取り合い、逃亡や反逆を謀ったりすれば……。


「レティシア」

「……はい」

「大丈夫だ、心配するな。奴らには気の毒だが、逃げ出す隙などほんの僅かも与えない」


 自信に満ちたエルの顔に、私は安心しつつも首を傾げる。

 逃げる隙を与えない? どうやって?

 エルはクイと口角を上げ、空を指差す。

 空? え? もしかして……


「ドラゴンに乗せていく」

「えぇっ!? でも、三頭とも拒否するのでは?」


 ネージュもフラムもシエルも、自分たちが認めた人間しか背に乗せない。カミルたちを認めるはずがないし、そんなことができるのだろうか。

 だが、エルは再び大丈夫だと請け負った。私は目を丸くするばかりだ。

 本当に、どうやって? 


「彼らには完全拘束の魔術を施し、木箱に入ってもらう。木箱にも魔術をかけ、完全に彼らの気配を消す。そうすれば、荷物と大差ない」

「荷物……」

「馬で急いでも三日はかかる。その間に何かないとも限らないし、念には念を入れた方がいい。せっかく捕らえた暗殺組織の人間だ。それに、カミルという男は組織のトップでもある。逃がしでもすれば大変なことになるからな」


 エルの表情を見て、私は悟る。

 エルは、カミルを最大限警戒しているのだ。

 取り調べにはエルも加わっているし、会話も交わしただろう。その中で、カミルや他の二人は、決して侮れない相手だと感じたのかもしれない。そうでもなければ、荷物としてドラゴンで運ぶなんて強引なことはしないだろう。


「ネージュに運んでもらうんですか?」

「いや、今回はフラムに行ってもらおうと思っている」


 ネージュは一度セントラルとここを往復しているし、おまけに一週間前は私を助けに来てくれた。ネージュばかりに労働させるのも、というエルの気遣いだ。

 それに、ネージュは他の二頭と比べても特に感覚が鋭く、エルが魔術を施しても気付かれてしまう可能性があるのだそうだ。

 また、フラムは最近飛行できる機会がなく、ストレスが溜まっているそうなので、フラムのストレス解消のためにも連れていってほしいと、カミーユから申し出もあったのだという。


「それでだ。今回のことでブラン家には心配をかけてしまったこともあるし、レティシアも一緒にと思うんだが」

「私もですか!?」

「気がすすま……」

「行きたいです! 一緒に連れていってください!」


 即答する私に、エルが肩を震わせる。

 レティシアならそう言うと思った、と笑い、エルは私を引き寄せた。


「わかった。それでは一緒に行こう。急だが、出発は明日だ。リバレイ領に戻ってくるまでに多少時間がかかるだろう。その心づもりでいてくれ」

「はい、わかりました」


 私は大きく頷く。

 多少時間がかかるとは、どのくらいだろう? 数日は向こうにいることになるだろうから、そのつもりで諸々用意しなくては。

 私は畑で待ってもらっていたユーゴにしばらく留守にすることを伝え、今日のところは帰ってもらう。そして、セシルにも伝えて準備を手伝ってもらった。


 こんなにすぐ、セントラルへ向かうことになるなんて思ってもみなかった。でも、大好きな家族にまた会える。

 お父様、お母様、マリアンヌの顔を思い浮かべながら、私はセシルとともに旅立つ準備を進めたのだった。

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