33-2.穏やかな一週間(2)
「ネージュ、助けに来てくれてありがとう」
そう言ってもう一度撫でると、ネージュはゆっくりとまばたきをした。どういたしまして、と言っているように見える。
「ネージュがいち早くレティシアの異変に気付いて、その気配を追った。そのおかげで、レティシアがリバレイ領の外にいることがわかったんだ」
「……そうだったんですか!?」
驚いた。
ネージュがあの場所に現れたことにはとても驚いたけれど、そういった経緯があったことに更にびっくりした。
気配を追う……ドラゴンにはそんな力があるのか。
でも、エルのその後の言葉にはもっと驚き、私はついポカンと口を開けてしまったのだった。
「レティシアがいる正確な位置は、魔術を使って突き止めたがな」
「魔術? 魔術を使ったんですか?」
エルは、魔術師しか使えないとされる、魔術を使うことができる唯一の存在だ。その力を駆使して敵を殲滅することから「魔王」と呼ばれている。
エルの魔術のことはよく知らないけれど、そんなことにも使えるの……?
食い入るように見つめる私に苦笑しつつ、エルは話してくれた。
「俺が使える魔術は、主に攻撃系だ。対象を破壊する、そのことに特化している」
そう言ったエルの表情は、僅かに翳りを帯びていた。
エルはきっと、その力を受け入れるまでかなり悩み、苦しんだのだろう。それが窺えた。
私には、エルの気持ちが少しわかる。
特別な力は時に羨まれたりするけれど、持っている本人にとっては必ずしも幸福とは限らない。それによって変に讃えられたり、逆に忌避されたりと、周りに振り回されてしまうからだ。
私は聖女だ。でも、なりたくてなったわけじゃない。きっと、エルの魔術もそういう類のものなのだろう。
「始めはそれが恐ろしかった。人やものを傷つけ、破壊するだけの力などいらない。何度そう思ったことか……。だが、この力があったからこそ、守れたものもある」
エルが拳を握りしめる。私はその拳を、そっと両手で包み込んだ。
本当は、誰も傷つけたくない、何も壊したくないのだ。エルは……とても、とても優しい人だから。
それでも、守るべきもの、クラウディアの平和と豊かさを維持するために、彼は戦っている。
「レティシア……」
「私は恐ろしくなどありません。だって、エルが持っているものですから。そしてエルは、その力を正しく使う。私にはそれがわかっているから」
その瞬間、強く抱きしめられた。
私は腕を伸ばし、エルの背中に回す。私もエルをぎゅっと抱きしめる。
この人がとても大切だ。強くて優しいこの人を……私は守りたい。
エルが私の顔を覗き込み、柔く笑む。心臓が高鳴り、壊れそうになる。
「レティシア、君と結婚できて、俺は本当に幸せ者だ」
「エル……私だって……」
「攻撃する際、敵に照準を合わせなくてはいけない。敵を確実に叩くためにな。今回、その力を応用したんだ。この力を持っていることに、これほど感謝したことはないよ」
「エル……!」
「絶対に離さない。レティシアはのことは、何があっても俺が守る」
エルの唇が落ちてくる。目を閉じると、火傷しそうなほどの熱を感じた。
でもその時──
「ゴォ!」
「グワァオ!」
「グゥルルルル……」
今度こそ本当に吹き飛ばされそうになってしまう。エルが踏ん張っていなければ、二人して飛ばされてしまっただろう。
「お前たち! 邪魔をするんじゃない!」
「うふふ……あはははは!」
あまりにおかしくて、令嬢らしからぬ大声で笑ってしまった。
ドラゴンたちは、また嫉妬してしまったのだ。それが可愛らしすぎて我慢できなかった。
私はすぐさまネージュ、フラム、シエルの元へ駆け寄り、それぞれの鱗を撫でていく。そうすると、彼らの機嫌は瞬く間に直った。
エルはそれを面白くなさそうに眺めていたけれど、そんなエルも可愛らしい。
嬉しくて、きゅっと胸が締め付けられる。
私は今ある幸せに感謝し、ずっと浸っていたいと願わずにはいられなかった。




