33.穏やかな一週間(1)
部屋でおとなしくしていた一週間の間にも、いろいろなことがあった。
まずは、ユーゴの謝罪。
彼は私の前で土下座をし、一向に顔を上げようとしなかった。そして、ひたすら首をはねてくれと懇願する。そこにはルナもいたものだから、私は思わずユーゴを怒鳴りつけてしまった。
「ルナの前でそんなこと言わないで! あなたがいなくなったら、ルナはどうすればいいの? ルナを悲しませるなんて、私が絶対に許さない!」
ユーゴは驚いたように私を見つめ、そしてルナはユーゴに抱きついてわぁわぁと泣いた。死なないで、死んだらやだ、そんな言葉を繰り返しながら。ユーゴも涙を流しながらルナを抱きしめる。
ユーゴはルナのために私を裏切らざるをえなかった。どんなに苦しかっただろう。
私はユーゴと目を合わせ、心を込めて彼に願った。
「お願い、命を粗末にしないで。ユーゴが平気であんなことをしたなんて思っていないわ。とても苦しかったでしょう? それに、私のために可愛いお嬢さんが危ない目に遭って……私の方こそ謝らなくてはいけないわ。ユーゴ、ルナ、ごめんなさい」
「いいえ、いいえ、とんでもございません!」
「レティ……シャ様、助けてくれて、ありがとうございました」
「ルナ、レティシア様だよ」
「レティ……シャ……レティ……」
一生懸命私の名前を正しく発音しようとするルナを見て、私は頬を緩める。
「レティシア」と発音するのは少し難しい。自分でも噛んでしまいそうになるほどだ。そして、妹のマリアンヌもそうだった。レティシア、と上手く言えない。だから「レティ姉様」と呼んでいるのだ。
ルナはマリアンヌよりも幼いのだから、なおさら言いづらいのだろう。私はマリアンヌを思い出しながら、ルナに言った。
「呼びづらいでしょう? レティ、でいいわよ」
「レティ……様」
「それなら呼べそう?」
「はい!」
満面の笑みで頷くルナに、私も笑顔になる。
なんて愛らしいのだろう。ルナが無事で本当によかった。元気にユーゴたちと再会できてよかった。
それから、ユーゴとは今後の話もした。引き続き私の農業の先生でいてほしいとお願いしたら、ユーゴはまたボロボロと涙を零しながら頷いてくれた。そして、これからはルナも手伝ってくれるという。
私が外に出られるようになったら農業を再開させることを約束し、ユーゴとルナはリバレイ邸を後にした。
療養期間は基本的に外に出してもらえず、外の空気はバルコニーで、という徹底ぶりだったのだけれど、例外的に一度だけ出してもらえた。私がどうしてもと、エルにねだったからだ。
それは、ネージュたちドラゴンに会いたい、というものだった。
特に、ネージュはエルとともに助けに来てくれたこともあるし、面と向かってお礼を言いたかった。で、ネージュに会うならシエルやフラムにも会いたい。
最初は渋い顔をしていたエルも、私の必死のお願いに最終的には折れてくれて、エルが同行するという条件でようやくお許しが出た。
エルはカミルたちの聴取やら何やらで忙しい中、何とか時間を作り、私をドラゴンたちのいる舎へ連れていってくれた。
世話係に声をかけた瞬間、ドラゴンたちは私たちの気配を察知したのか声を上げ始める。ゴォだの、グルルだの、様々だ。私にはそれら全部が歓迎の声に聞こえた。
実際に顔を合わせると、三頭全員がこちらを凝視し、その後頭を低くしてくる。その様子がとても可愛らしくて、私は彼らに抱きつきたい衝動に駆られた。というか、駆け出しそうになるところをエルに止められた。
「そのまま突進しそうな勢いだったぞ」
「だって、皆可愛らしいんですもの!」
「気持ちはわかるが、本当に突進したら怪我をする」
エルはやれやれといった顔をしながらも、その視線は柔らかい。私の腰を軽く抱き寄せ、額に口づけた。
「すっかり元気になったのは嬉しいが、元気すぎるのもな」
「ごめんなさい」
はしゃぎすぎたことを反省して謝ると、また口づけられた。すると、ドラゴンたちがゴォ、とこれまでよりも少し大きな声を立てる。
エルに支えられているから飛ばされることはないけれど、うっかりするとひっくり返ってしまいそうな勢いだ。
「どうやらドラゴンたちに嫉妬されてしまったようだな。お前たち、レティシアは俺のものだぞ。わかってるのか?」
「ゴォ!」
「きゃあっ!」
「……ったく、仕方がないな」
エルは一番不服そうな顔をしているネージュの元へ私を連れていく。
頭を低くしているネージュに近づき、私はそっと鱗に触れ、優しく撫でた。ネージュは気持ちよさそうにきゅっと目を閉じる。




