32-2.帰還(2)
「レティシア様! 入ってよろしいでしょうか?」
息を切らしたセシルの声が聞こえた。
離れていたのはたった一日足らず。でも、もうずっと長い間離れていた気がして、どんどん目頭が熱くなってくる。
「セシル!」
「すみません! 失礼いたしますっ!」
セシルらしくなく、バン、と音を立ててドアを開ける。
「セシル……」
「レティシア様っ!!」
セシルが一目散に駆けよってきて、私に抱きついた。セシルを受け止め、私もぎゅっと抱きしめる。
あぁ、セシルだ。よかった。邸内にいればすぐに助け出されるとは思っていたけれど、こうして無事な姿を見られて本当によかった。
「セシル、無事でよかったわ!」
「申し訳ございません。私が役立たずなばかりに、みすみすレティシア様を目の前で……」
「いいの。あんなの、誰だって防ぎようがなかったわ。それよりセシル、怪我はしていない? 大丈夫?」
身体を離し、私はセシルの顔や腕などを確認する。目に見えるところは問題ないようだけれど、見えないところに怪我などしていないだろうか。
すると、セシルは笑って首を振り、また私を強く抱きしめた。
「平気です。どこも怪我しておりません。動けないように手足を縄で縛られましたが、すぐにカミーユ様とアリソン様が見つけ出してくださったんです。だから、縛られた跡ももうすっかりこのとおりです」
そう言って、セシルは手首や足首までも見せてくる。セシルの言うとおり、そこに跡のようなものは何もなかった。
「本当に……よかった……」
くぅ~~……。
安心した瞬間、気の抜けるような音がする。……私のお腹から。
私は真っ赤になり、セシルに抱きついた。
は、恥ずかしい……。
セシルは小さく笑って、そっと囁く。
「恥ずかしがることなんてございません。無事な証拠ですわ。レティシア様、これからお食事をお持ちしますから、少々お待ちくださいませ」
「え? ここに?」
私がきょとんとすると、セシルは真面目な顔になって私に言い含める。
「もちろんですわ。完全に体調が元に戻るまで、おとなしくしていただきます。農業もお休みです。……わかりましたね?」
「でも……食事をすればすぐに元気に……」
「いけません! 油断は禁物ですよ! あれほど恐ろしい目に遭ったのですから、ご自分で思っている以上にダメージが残っているかもしれません。最低一週間は安静にしていただきますからねっ!」
「ええっ!?」
「これは、エルキュール様のご意思でもあります。レティシア様、エルキュール様のおっしゃることに異を唱えますか?」
詰め寄ってくるセシルに、私はタジタジとなる。そこまで言われたら、おとなしく言うことを聞くしかない。
私は観念して、渋々ながら承諾した。
セシルは満足そうに微笑み、すぐに食事を持ってくるからそのまま待つようにと言って、部屋を後にする。
ドアが閉まった後、私は大きく溜息をついた。
「一週間って……少し大袈裟な気がするわ……」
でも、心配をかけてしまったことは事実なのだし、セシルの言うことも一理ある……かもしれない。
仕方がないので、私は一週間、部屋でおとなしく心身の回復に努めたのだった。




