表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/90

30.咆哮

 どれくらい時間が経ったのだろう?

 カミルは宣言どおり、休みなく馬を走らせている。私を抱えたままで、よく体力が持つものだ。カミルの表情を窺うけれど、疲れは一向に見えない。

 一方の私はというと、身体が縛られていて動かせないこと、そしてこの寒さで、体力はすっかり失われていた。おそらく、聖女の力を使った影響もあるだろう。

 戦うことは無理でも、隙を見て逃げることはできるだろうかと考えたけれど、それも叶わない。縄が解かれたとしても、節々が強張ってすぐには動かないし、動けたとしてもいつものようにはいかないだろう。

 私の心は絶望に覆われていた。もうどうすればいいのかわからない。


 ふと、エルの顔が思い浮かぶ。彼は今、どうしているだろうか。いなくなった私を探し回ってくれているのだろうか。

 でも、例えリバレイ騎士団総出で探したとしても、何の手がかりもない状態で私を見つけ出すのは困難だ。それに、今はまだクラウディア国内にいるのだとしても、かなりの僻地のはず。そう簡単には見つけ出せない。

 ぼんやりとこの先のことを考える。

 リバレイ領を出て他国へ向かうなら、砂漠を越えることになる。今の私の体力で、それができるのだろうか。途中で息絶えるのではないか。

 ……こんな男のものになるくらいなら、いっそその方がいい。

 意識が遠のく。体力と同時に気力も失われていく。もうだめだ、そう思った時──


 ゴォッッ!


 地響きがするほどの激しい咆哮、その後に何か冷たいものが降り注いできた。


「頭! やべぇ!」

「なんだ、これは……雪、じゃないな。氷か!」

「頭、上を見ろ」


 スードの言葉に、カミルが空を見上げる。その瞬間、彼は咄嗟に馬を止めた。スードもアシムもそれに倣う。

 何が起こったのかと、私も不自由な体勢で上を見上げた。そして、信じられないものを目にする。


「ネージュ!!」


 空の上にはネージュがいた。ネージュが激しく咆哮し、氷を降らせている。


「ネージュ! 私はここよ!」


 声が枯れてしまうほどの大声をあげる。すると、ネージュは私の声が聞こえたかのように咆哮をやめた。

 あぁ、ネージュがいる。ネージュが来てくれた。そして、ネージュがいるということは……。


「レティシア!!」


 愛しい人の声が私の耳に届く。私を呼ぶその声に、目頭が熱くなった。


「エル!! エル! ここ! 私はここにいるわ!」


 私は必死に何度もそう叫び続ける。しかし、我に返ったカミルに口を押さえつけられる。


「チッ。ドラゴンが来るとかどうなってんだよ! しかも、魔王も一緒って……。スード、アシム、ずらかるぞ!」

「頭! またくる!」


 ゴオオッ!


 今度は氷は降ってこない。その代わりにものすごい風が巻き起こり、人も馬も吹き飛ばされてしまう。吹き飛ばされるだけでなく、竜巻のようなものに巻き込まれ、何が何だかわからなくなった。


「わあああああっ!」

「くそっ!」

「頭ーーーーーっ!」

「きゃあああああ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ