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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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26.解放の条件

 いくら私が護身術に長けているとはいえ、さすがに男三人を一度に相手にすることはできない。それに、小さな女の子も一緒となると、ますます無理がある。この子をまずは親元に帰してあげることが先決だ。

 私はゆっくりと目を開け、頭をまっすぐに見据えた。


「俺を恐れもしないとは、たいした聖女様だ」


 男の口角が少し上がる。私は、改めて三人の男たちの風貌を観察した。

 三人とも、この辺りに住む人間ではないことは明らかだった。

 褐色の肌をしており、目鼻立ちがはっきりとしている特徴的な顔。クラウディアでは見かけない肌の色と顔立ちだ。そして三人とも、細身だ。華奢に見えるけれど、きっとそうじゃない。暗殺組織の人間なら、それなりに鍛えているはずだ。

 先ほど怒鳴り散らしていた男は、他の二人と比べて小柄だ。目が大きく、ぎょろっとしている。この男はたぶん、この中で一番弱い。だからこそ、必要以上に威嚇してくるのだと予想した。

 その隣にいる男は逆だ。無表情で何を考えているのかわからない。目が細くつり上がっていて、油断のならない雰囲気を醸し出している。ただ立っているだけなのに、隙が見えない。命令されれば、何を考えることもなく、何を感じることもなく、どんなことでもやってのけそうな。怒鳴り散らす男よりも厄介だと感じた。

 そして、頭。

 これが意外なのだけれど、驚くほどの美丈夫だった。形のいい瞳は美しい深紅で、褐色の肌によく映える。通った鼻、僅かに厚い唇は、男の色香を漂わせている。品もあって、他の二人とは別格であることが窺えた。


「どうした? そんなに見つめられると穴が開きそうだな。なんだ、俺に惚れたか?」

「ふざけないでいただきたいわ」

「お前! 頭に向かって……」

「うるさい! 黙っていろ!」

「ひっ……」


 初めて声を荒らげた頭に、小柄な男は悲鳴をあげ、押し黙る。

 彼は隣の男に向こうの部屋に戻るよう促され、おとなしくそれに従った。そして、隣の男も頭に何か一声かけて後に続く。扉は開けられたままだけれど、今ここには、私と女の子と頭の三人だけになった。

 この男が何を考えいるのか全くわからないけれど、他よりも話が通じそうな気がする。

 私はゴクリと息を呑み、もう一度男を見据えた。


「あなたにお願いがあるの」

「カミル、だ」


 男はニヤリと笑む。顎を突き出し、そう呼べと暗に言う。

 とても癪だけれど、お願いをする身だ。言うことを聞くしかない。

 私は気持ちと呼吸を整え、言い直した。


「カミル、お願いがあるの」

「一応聞いてやる。言ってみろ」


 カミルは面白そうな顔で私を見つめる。

 この距離の近さがとんでもなく落ち着かない。それでも、視線を逸らせば負けだと思った。私は彼を見据えたまま、要望を伝える。


「あの子を解放してあげて。あんな小さな子をどうして攫ったの?」

「あぁ、あれはお前を攫ってくるための餌だ」

「餌……?」

「そうだ。彼女の名前はルナ、だっけな。親がそう叫んでたよ」


 私は真っ青になる。

 ルナ、私はその名前を知っている。会ったことはまだなかったけれど、ある人物からよく彼女の話を聞かされていたからだ。


「ルナ……ルナって、ユーゴの娘さんよね!?」

「あぁ、親父が確かそんな名前だったな。レティシア、お前を油断させるために利用させてもらった」

「……っ」


 なんてことだろう! 私のせいで、ユーゴは自分の命よりも大切だと言っていた愛娘を攫われてしまったのだ。

 それと同時に、私は自分の信じていたことが正しかったことを知った。

 やっぱりユーゴは好きで私を裏切ったんじゃない。そうせざるをえなかったのだ。だとすれば、なにがなんでもルナをユーゴの元へ帰してあげなくてはいけない。

 私はルナを振り返り、叫んだ。


「お願い! ルナをユーゴの元へ帰してあげて! 私を攫ってきたんだから、あなたたちの目的は達成されたはずよ! 後は、売り飛ばすなんなりすればいい、だから、あの子だけは無事に帰してあげて!」


 するとカミルは、再び私の頤に手をかけ、自分の方へ向かせる。そして、小さく囁いた。


「その言葉、真実だろうな」

「えぇ、もちろんよ」

「あの子どもを親に帰せば、自分はどうなろうと構わない」

「そうよ」


 私の言葉に、カミルはフッと表情を和らげる。瞳を細め、頤に触れていた手を頬に添えた。


「レティシア」


 カミルは、ルナを解放する条件を私に突きつける。


「俺のものになれ。そうすれば、あの子どもを解放してやる」


 私は驚愕のあまり、頭の中が真っ白になってしまった。

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