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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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25.誘拐の実行者

 いきなりバタンと扉が開いた。差し込む光に私は目を細める。


「おや、ようやくお目覚めですか」

「んーんーんーっ!」

「黙れ、お前に言ってるんじゃない」


 中に入ってきた男が何者かも気になるけれど、それより、くぐもった声の主だ。一緒の部屋に閉じ込められていたというのに、暗くて気付かなかった。

 背後を振り返ると、私がいる場所とは反対側の奥に、小さな子どもがいた。その子は口に布が巻かれているため、話すことができないのだ。

 あの子はいったい……。いくつくらいだろうか。顔がはっきり見えないので何とも言えないけれど、身体の大きさからすると、まだ五、六歳というところか。


「ううっ……」


 男に黙れと凄まれたことで、その子は泣きだしてしまった。


「泣かないで。大丈夫よ、今そっちに行くわ」


 私は怯えさせないよう、優しく声をかける。

 手足は縛られているけれど、あの子のところまで這えば行けなくもない。でもその前に、男に止められてしまった。


「おっと。聖女様は大事に扱わなきゃいけないんでな、俺に手を出させないでくれよ」


 男は私に近寄り、頤に手をかけて凄んでくる。

 距離の近さにぐっと詰まるものの、これはチャンスとばかりに私は男の顔を脳裏に焼き付けた。絶対に忘れるものか。


「いい目だ。さすが “戦う聖女” と名高い、レティシア・ブラン嬢。他国に売り飛ばすのはもったいないな」

「お言葉ですが、間違えないでいただきたいわ。私の名前は、レティシア・リバレイ。リバレイ領領主、エルキュール・リバレイの妻です」


 誰だか知らないけれど、ここは正しておきたい。この男、私が結婚したことを知らないのだろうか。

 クラウディア国の人間なら知らないはずはない。とすると、他国の人間なのか。でもさっき、他国に売り飛ばすのはもったいないと言った。

 私は頤にかけられた手を振り払うように、大きく頭を振った。


「あの子は誰? そしてあなたは何者なの? こんなことをして、ただで済むとは思っていないでしょうね?」


 男に負けじと、私も凄んでみせる。すると男は喉を鳴らし、しまいには声をあげて笑い出した。


「あっはっはっは! いいな、すげぇいい。やっぱり、他国に売るのはやめだ」

かしら! その女を他国に売り飛ばして、大金をせしめるんじゃないんですか!」


 もう一つの部屋から別の男が入ってくる。文句を言っている男と、黙って立っている男の二人だ。感覚的に、ここはそれほど広い場所じゃないと思うので、敵は男三人と見た。

 たった三人で私の誘拐を企て、実行したというのだろうか。この後、どうなるかがわからないほど、素人ではないと思うのだけど。


「答えなさい。あの子は誰? あんな小さな子にひどいことをして、恥ずかしくないの!?」


 私が声を荒らげると、頭と呼ばれた男はあの子の元へ行き、その身に触れようとした。


「やめなさいっ!」

「落ち着けって。こいつをあんたのところへ連れて行くだけだ」


 男はそう言うと、子どもをひょいと持ち上げ、スタスタと歩いてくる。そして、私の目の前に下ろした。


「あなたは……」


 女の子だった。大きな丸い瞳が可愛らしい、あどけない少女だ。少女はその瞳を潤ませ、私をじっと見上げた。


「泣かないで。……こんなところに閉じ込められて、怖かったでしょう? でも、もう大丈夫よ。あなたはじきにお父様やお母様の元に帰れるわ」

「ううう……」


 苦しそうな泣き声に、怒りが込み上げてくる。

 私は男に、彼女の解放を訴えた。


「この子の布と縄を解いて。攫ってどれくらいかわからないけれど、食事は与えているんでしょうね? この子を今すぐ自由にして、一刻も早くご両親の元へ帰してあげて!」


 すると、先ほど頭に反論していた男が、目を吊り上げてがなりだした。


「さっきから聞いてりゃ偉そうに! 貴族様がそんなに偉いのか! お前らは偉そうにふんぞり返って命令してりゃ、皆が言うことを聞くと思ってんだろう? ふざけるな! 誰がっ……」

「黙れ」

「頭っ! でもあの女が……」

「黙れと言っている。聞こえなかったか?」

「……っ」


 頭は眉一つ動かさず、淡々と言っただけだ。なのに、この場が一気に緊張する。

 怒鳴っていた男は黙り込み、もう一人の男に肩を叩かれていた。

 頭の命令には絶対服従。ということは、残念ながら、やはり彼らは暗殺組織の人間なのだろう。

 そう結論づけた私は、現状を憂うようにそっと静かに目を閉じた。


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