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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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22.攫われた聖女

 寒い……。

 あまりにも冷たい風が吹き込むせいで、私は目覚めた。意識が戻った瞬間、殴られた鳩尾が痛む。

 目を開けたはいいけれど、暗くてよく見えない。ここは一体どこだろう?


 信頼していたユーゴが私の動きを封じ、一緒にいた男が私の意識を奪った。

 こんな大胆なことをしでかすのだから、ここはもうリバレイ領ではないだろう。かといって、それほど遠くには離れていない。

 どれくらいの時間、気を失っていたかはわからない。でもまさか、丸一日ということはないはずだ。たぶん、数時間程度……だと思いたい。

 だとしたら、馬を全速力で走らせたとしても、リバレイ領を出るので精一杯というところだろう。


 ビューッと風が吹き込んできて、身体が震える。

 いくら風が強いにしても、隙間風が入り込む家なんて寒冷地ではありえない。そんな家に住んでいたら、たちまち凍えてしまう。どんなに貧しくても、絶対にありえない。──ここが、リバレイ領であれば。

 でも、別の領地だとすればそうとも限らない。領主次第で、こういう家があってもおかしくない。


「~~……」

「! ~~」


 風の音に紛れ、微かに人の声が聞こえた。

 じっと目を凝らすと、ようやく周りの様子がうっすらと見えてくる。

 この家は、普通の家じゃなさそうだ。倉庫のようなものかもしれない。ただし、もう使われてはいないのだろう。だって、私の周りにはおそらく何もない。できる範囲で身体を動かしてみても、何にもぶつからない。

 ガランとした部屋の奥に押し込められている状態。その中で、ほんの少しだけ細い光が見える。もう一つ部屋があり、明かりはそこから漏れていた。人の声もそこから聞こえてくる。

 男の声だ。人数は、おそらく三人程度。見張りがいるなら、もう少しいるのかもしれない。どちらにしても、私一人で何とかするのは難しそうだ。なにせ私はまだ後ろ手に縛られているし、両足首も縄で縛られ動けない。

 ただ、口は塞がれていなかった。縄も布もない。大声を出そうを思えばいつでも出せる。でもそれは、声を出しても無駄だということに他ならない。


「ここがどこかわかれば、せめて……」


 そんなことを呟いてみるけれど、わかったところでどうすればいいのか。自分がいる場所を知らせることもできないのに。


『レティシア様、申し訳ございませんっ』


 私の両手を布で巻きつけながら、ユーゴは小さな小さな、消え入るような声でそう言った。その声は、涙交じりだったように思う。

 ユーゴはずっと俯いていたから、その表情はわからない。でも、苦しみで歪んでいたのは確実だ。私を縛るユーゴの手は、ずっと震えていた。だから私は、咄嗟に動けなかったのだ。

 これが見も知らない赤の他人なら、こんな風にむざむざと捕まったりはしない。蹴りの一つもくれてやったところだ。あの男に鳩尾を殴られる前に、何とかできたはずだった。

 でも、ユーゴだったから。そして、ユーゴも苦しんでいたのがわかったから……。

 ユーゴはきっと脅されていた。何か弱みを握られていたに違いない。だから言うことを聞くしかなかった。


「今頃、ユーゴはどうなっているのかしら……。そして、セシルは無事なの?」


 私を攫うことが目的なら、セシルにあれ以上の危害を加える必要はない。縛られて、どこかに閉じ込められてはいるだろうけど。でも、邸内ならすぐに助け出されるはず。

 私がいなくなったことはすでにわかっているはずだし、セシルもいないとなると、全員で探すだろう。セシルはもう助け出されている。お願い、そうであってほしい。

 でも、ユーゴは? 逃げたとしても、エルや騎士団がそれを見逃すはずがない。捕まって……それから? 私の居場所を聞かれたとしても、たぶんユーゴだってそこまでは知らないだろう。そうなれば、ユーゴは私を敵に売った裏切り者として断罪されはしないだろうか?


「エル、違うの。ユーゴは悪くない、悪くないのよ。お願い、エル! ユーゴを責めたりしないで……」


 私は強く目を閉じ、頭の中に浮かぶエルに向かって、必死にそう訴えるのだった。

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