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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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21.不測の事態

「レティシア様」


 執事がやって来たので、私は喜び勇んで立ち上がる。エルに知らせに行ったファビアンが戻ってきたと思ったのだ。


「ファビアンでしょう?」

「いえ、ファビアン様ではなく、ユーゴさんがいらっしゃっております」

「ユーゴが?」


 こんな風にユーゴが突然やって来るのは珍しい。もしかしたら、すぐにでも知らせたいことがあるのかもしれない。

 私はそう思って、自分で応対すると言った。


「お会いになられるのですか? ファビアン様がもう少ししたら戻られるのでは?」


 セシルはそう言ったけれど、それほど時間はかからないだろうし、私は大丈夫だと言って玄関に向かう。


「レティシア様、突然来てしまって申し訳ございません!」


 私の顔を見るなり、ユーゴが頭を下げる。私はユーゴの顔を上げさせ、どうしたのかと尋ねた。


「どうしたの? 何かあった?」

「実は……土の改良が上手くいったのです。それで、その土を使ってみてはいただけないかと」

「まぁ、本当? それはぜひ使わせてほしいわ!」


 ユーゴは努力家だから、それが報われたのだとしたらとても嬉しい。


「それでは、畑の方に運び込ませていただいてよろしいでしょうか?」


 私はもちろん、と二つ返事で了承する。

 改良された土、それはどんなものなのだろう? どんな色? 触り心地は? 元の土とはどういう違いがあるのだろう?

 私は好奇心を抑えられず、ユーゴと一緒にもう一度畑に向かうことにした。ユーゴもぜひ違いを見てほしいと言っているし。

 私が出て行こうとすると、それを察したセシルが大慌てでやって来て、一緒に行くと言い張った。敷地内だし、ユーゴもいるから大丈夫だというのに、セシルは念のためと言って聞かない。


「お付きは何人いても邪魔にはなりませんわ」


 そう言って、私とユーゴについて来る。

 セシルだから邪魔になることは絶対ないし、ここまで一緒に来るというのを無碍にするのもなんだしと思い、私はそれに頷いた。

 邸を出ると、見慣れない男が一人、大きな袋を持って立っている。彼はユーゴの知り合いで、土を持ってくれているのだとユーゴが説明してくれた。


「こんなにたくさん持ってきてくれたの?」

「土は、少量では意味がありませんので……」

「そうか。それもそうね」


 私は納得し、男の持っている大きな袋を見上げる。彼はそれを軽々と運んでいた。体型はがっしりした感じではなく、むしろ細身に思うのだけれど、随分力持ちだなぁと感心する。


「重くない?」

「いえ。お気遣いいただき、ありがとうございます」


 男は礼儀正しく頭を下げた。それでもバランスを崩すでもなく、余裕の表情。


「力持ちね」

「はい。それが取り柄でございます」


 特に愛想がいいわけではないけれど、受け答えは感じがいい。ユーゴの知り合いだということもあり、私は初対面のその男性に対し、すっかり警戒心を解いた。


 庭の隅にある畑に到着し、男は持っていた袋を下ろす。

 私はどの辺りでその土を使わせてもらおうかと、ユーゴを振り返る。その瞬間、それは起こった。


「レティシア様っ!」


 セシルが男に拘束され、素早く口に布を巻かれる。声を出せないようにするためだ。


「どうしてっ!?」


 ユーゴはその間に私の両腕にすばやく布を巻き付け、手を出せないようにする。背中側で巻かれたものだから、何もできない。

 そうこうしているうちに、セシルを完全に動けなくした男が私のところへやって来て、私の鳩尾を殴った。叫ぶ間もないほどに鮮やかだった。

 痛みと同時に目の前が暗くなる。意識が遠のいていく。そのぼんやりとした中で、私は思った。

 セシルは無事なの……?

 ユーゴ、どうしてユーゴがこんなことをするの? 何があったの? 

 ユーゴが何の理由もなくこんなことをするはずがない。私はそう信じている。その理由を知りたくて、そして悲しくて──私の意識は、暗闇の中に落ちていった。


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