20-2.嵐の前(2)
「それに、私自身がレティシア様の護衛に就きたいと、エルキュール様に願い出たのです。もちろん、第一のアリソン副団長も。私たちが担当することが多いのはそのためなのです。ですから、レティシア様が気になさることは何一つございません。私たちが望んでそうしているのですから」
「……そうだったの?」
「はい」
全然知らなかった。エルも何も言ってくれなかったから。
でもそう言えば、私に護衛をつける話をしていた時のエルは、少し不機嫌だったような……。いや、不機嫌というより、拗ねていた気もする。
側で一緒に話を聞いていたセシルは、「きっとエルキュール様がずっとお側にいたいんでしょうね」なんて言っていたけれど、もしかして……ファビアンやアリソンに嫉妬していたとか?
そう思った瞬間、頬が熱くなる。
「レティシア様? どうかされましたか?」
「な、なんでもないわ! さぁ、もう一度挑戦しようかしら!」
わざとらしく大きな声でそう言い、私が土に手を遣ると、ファビアンはそっとその手を取った。
「今日はもうこのくらいにしておきましょう。無理をされるのはよくありません」
「でも……」
「偶には気分転換も必要ですよ」
気分転換……確かにそうかもしれない。
すると、ファビアンが私が飛び上がって喜ぶような提案をしてくれた。
「もしよろしければ、ネージュたちに会いに行かれますか?」
ドラゴンたちは群れをなして森の中に住んでいる。だが、ネージュやシエル、そしてレッドドラゴンのフラムはすぐ近くにいるのだ。彼ら専用の家があり、世話係が常駐している。
世話係は食事の世話や掃除などをしているのだけれど、ドラゴンたちに認められているわけではない。それでもドラゴンたちは、彼らを決して攻撃したりはしない。世話係は世話係と認識しているのだ。ドラゴンはとても賢い。
「いいの?」
ドラゴンたちは神経質でもあるので、そうしょっちゅう会いには行けない。それに、エルかファビアンが一緒でないとだめだと言われているのだ。
三頭のドラゴン全員に認められているのはエルだけで、ネージュ以外に認められているのがファビアンだ。特にシエルはファビアンに懐いていて、ファビアンが来るとご機嫌なのだという。ちなみに、カミーユはフラムにだけ認められているのだそうだ。
ドラゴンたちは、彼ら以外の人間を寄せ付けない。それを考えると、私が三頭のドラゴンに近づけるのは、奇跡とも言えることだった。
「実はこの間、ドラゴンたちの顔を見に行ったんですが、その時にネージュが少し元気がないように見えまして……」
「え? 大丈夫なの? 体調が悪いとか?」
心配になって尋ねると、ファビアンは笑いながら首を横に振る。
「いえ、体調には何の問題もないのです。念のためエルキュール様にもご報告したところ、寂しいのではないかとおっしゃられていました」
「エルが来なくて?」
「そうではありません。おそらく、レティシア様に会いたいのだと」
「本当に!?」
嬉しさで胸がいっぱいになる。
ネージュが私に会いたいと思っている! それだけ私を好いてくれているということだ。
私は半ば興奮状態で、ファビアンに詰め寄った。
「私だってネージュに会いたいわ! もちろんシエルにも。そして、フラムにはまだ一度しか会ってないのよ? また会いたいわ!」
ファビアンはそんな私にタジタジになりながら、何度も頷く。
「わ、わかりました! それでは一旦邸に戻りましょう。中でお待ちください。私はエルキュール様にお伝えしてきますので」
「わかったわ。ありがとう、ファビアン!」
私はファビアンと一緒に邸の中に戻り、ファビアンは急いでエルの元へ馬に乗って向かう。
私は邸でセシルに迎えられながら、浮き立つ気持ちでファビアンの戻りを待っていた。




