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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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20.嵐の前(1)

 セシルがリバレイ領に到着してから、一週間ほどが経った。

 最初はセントラルとの気温差に驚いていたようだけれど、それももう慣れ、邸内の人間関係の方も良好みたいだ。元々ここにいる使用人たちは皆親切ということもあり、セシルはすぐに馴染んでしまった。

 そして私はというと、リバレイ領の土を何とかしたいと、毎日のように庭の畑に通っている。

 様々な栄養を与え、それを馴染ませ、肥沃な土を作っていく。それには時間がかかるけれど、そこを短縮するために聖女の力を注ぐのだ。でも、植物を成長させるのとは少し勝手が違うようで、なかなか上手くいかない。


「こんなことなら、いろんなものを成長させる訓練をしておけばよかった」

「焦る必要はないですよ。それより、力を使いすぎないでください。最近、レティシア様が疲れた様子だと言って、エルキュール様がご心配されていますよ」


 そう言って私を窘めるのは、ファビアンだ。

 暗殺組織に用心し、私が邸の外に出る時は、例え敷地内であっても護衛がつくようになった。騎士が持ち回りで担当してくれているのだけれど、ことごとく上位の騎士ばかりというのが本当に申し訳ないと思う。

 それに、顔見知りの方がいいだろうというエルの気遣いもあり、アリソンとファビアンが担当することがとても多いのだ。確かに顔見知りで気は楽だけど、二人とも優秀すぎるほど優秀だというのに、私の護衛に割いていいのだろうか。


「力の加減についてはちゃんと気を付けているから大丈夫よ。それよりファビアン、騎士団でのお仕事もたくさんあるんでしょう? 私の護衛ばかりしていたら、そちらの仕事が進まないんじゃなくて?」


 ファビアンとは一番関わっているせいか、口調もだいぶ砕けてしまっている。今ではもう、兄のように慕っているところがあった。

 だってファビアンは、私の思い描く理想の兄様なのだ。優しくて、強くて、頼りになる。こんなお兄様がいればいいのに、なんていう幼い頃の夢が叶った感じだ。

 こう思うようになったのも、騎士団で一度手合わせしてからだ。あの時を境に、ぐっと距離が縮まった気がする。


「各騎士団に、団長と副団長がいるのはどうしてだと思いますか? それは、仕事を分担するためですよ。それに、事務処理などの実務的な仕事は、大抵副団長の方が有能なのです」

「……そうなの?」

「はい、そうです」


 ファビアンがうんうんと頷き、二ッと笑う。それはまるで、悪戯っ子のようだった。

 ファビアンの方もあの手合わせ以来、私に心を開いてくれていると思う。

 共に戦ったり、鍛錬したり、助け合ったり、そういうことで距離が縮まるというのはよくあることだ。そしてそれは、普通は男性だけの特権。でも私は普通の令嬢じゃないから、それを味わうことができる。

 そう思うと、たいした力もないのに常に襲われたり攫われたりする心配をしなければならないこの煩わしい身も、それほど悪くないと思えるから不思議だ。

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