表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/90

18.不穏な動き

 私が邸の中に入ると、ちょうどエルも戻ってきたところだった。

 どうやって早馬のことを知ったのかと私が驚いていると、なんとドラゴンたちが教えてくれたのだという。

 ドラゴンは普段とは違う空気を感じると、すぐさまそれに反応するのだそうだ。ドラゴンたちの側には世話係がいるので、彼らがそれを報告してくる、というわけだった。


「それでは、敵がいきなり大群で攻め入ってくるなんて不可能ですね」

「あぁ。だが、少数でこっそり忍び込まれると、さすがに難しいがな」


 それはそうだけど、少数なら騎士団で何とかできるはずなので、改めてリバレイ領は固く守られた地なのだと感じずにはいられない。

 そうしていると、早馬の騎士が邸に到着し、中へと通された。彼はエルに敬礼し、すぐさま報告を始める。


「申し上げます。レティシア様付の侍女、セシル様を乗せた馬車は、明日の朝一にこちらに到着する予定でございます」


 朝一? この間聞いた話じゃ、明日の夕方頃という話だったのに。

 私がエルを見上げると、エルは小さく頷き、騎士に続きを促す。


「実は、先日馬車が何者かに襲撃されまして……」

「なんですって!?」


 私はその報告に動揺し、一瞬身体がふらつく。


「レティシア!」


 エルが咄嗟に私を支える。私はその腕に掴まりながら、騎士に尋ねた。


「しゅ、襲撃って……。セシルは? セシルは無事?」

「ご安心くださいませ。セシル様のお側には、アリソン副団長が常に控えております。万が一、敵が馬車に近づけたとしましても、セシル様に指一本触れることは叶いません」


 騎士の言葉に、私は大きく息を吐き出した。

 エルは私を安心させるように、何度も背中をさすってくれる。


「アリソンに敵う奴などそうはいない。その前に、馬車に近づくことさえ困難なはずだ。そのようなこと、第一騎士団が許すはずがない」


 エルがそう言うと、騎士も同意し、報告を続けた。


「はい。賊は馬車に向かって攻撃してきましたが、もちろんその前に我らが食い止めました」

「よくやった。それで、その賊は?」

「捕まえて目的を吐かそうとしたのですが、ほんの一瞬の隙をつかれ、逃げられてしまったのです。大変申し訳ございません」

「そうか……」


 エルの眉間に皺が寄る。

 エルがこんな顔になってしまうのもよくわかる。だって、第一騎士団は精鋭部隊だ。その隙をつくなど、敵も相当の手練れに違いない。


「どれほどの数だった?」

「それが、全員合わせて五人だったのです」

「そんな人数で向かってきたのか?」

「はい。襲撃してきたのは、深夜だったこともあるのですが」

「そうか……。大人数では逆に気配を悟られると思ったのか。だが、いくら深夜とはいえ、第一騎士団を相手にそんな人数で向かってくるとは……。もしや、全員に逃げられたのか?」

「いえ、四人はすでに絶命しております。こちらで仕留めた者もおりますが、逃げられないとわかり、自ら命を絶った者もおります」

「……そこらの悪党というわけではなさそうだな」


 エルが私の方を見る。その気遣うような視線に、私は小さく首を横に振った。

 もう大丈夫。慌てたり動揺している場合ではない。セシルは無事だったのだし、この報告なら、第一騎士団の中にも命に関わる怪我をした者もなさそうだ。

 それより気になるのは、襲撃してきた賊の正体だ。


「おそらく……素人ではない。玄人の仕業でしょう」


 私の言葉に、騎士がハッとした顔をする。まさか私の口からこんな言葉が出るとは思わなかったのだろう。


「レティシアの言うとおりだ。捕まれば、自分たちの目的や雇い主を吐かされるのはわかっている。それを自分で絶ったということは、はした金だけで雇われた悪党などではない。おそらく……暗殺組織に属している輩だろう」


 騎士は深く頭を下げる。それはつまり、肯定を意味していた。

 クラウディア国、そして近辺の国々もその存在を表立っては認めていない。だが、それは確かに存在していた。

 「暗殺組織」──誰が率いているのか、属している人数やアジトなど、正確に把握している者はいない。だが、彼らに依頼をすれば、確実に仕事を完遂させるのだという。

 彼らを動かすのも金銭であることはその辺の悪党たちと変わらない。でも、その金銭が問題だ。彼らへの依頼には、かなりの額が必要となる。もしくは、それに代わるもの。

 そんなものを用意できるのは、平民であれば豪商、そして力を持っていて潤沢な資金を有する貴族か。

 彼らは暗殺の達人であり、職人だ。失敗は決して許されない。失敗=死。自ら絶つか、組織に絶たれるかの違いなのだった。


「狙われたのは……私、なのでしょうね」


 そう呟くと、騎士はますます深く頭を下げ、エルは私は引き寄せ、強く抱きしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ