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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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16-2.リバレイ騎士団(2)

 騎士団の訓練所には、多くの騎士たちが集まっていた。彼らはエルの姿を認めるやいなや、ピシリと姿勢を正し、最敬礼する。


 リバレイ騎士団は、第一から第二十に分かれ、それは個人の資質と実力とで振り分けられている。そして、身分や家柄などは一切関係なく、入団テストをクリアさえすれば誰でも入ることができるのだ。

 騎士団に入れば、平民も貴族と対等に渡り合えるということで、入団を志す者は多い。テスト自体も決して簡単ではないし、クラウディア全土から志望者が集まってくるので、かなり狭き門となっている。それでも志望者が後を絶たないのは、実力でのし上がっていけるという魅力があるからだろう。


「俺は、身分といったものにあまり重要性は感じていないんだ。大切なのは個人の能力や考え方で、能力があり、国を守りたいという強い意思を持つ者に騎士になってもらいたい」


 私は、エルのその考えに深く同意した。


 セントラルにも優秀な騎士団は存在する。国の中枢を守っているのだから、それなりの実力も当然持っている。

 ただ、セントラルの騎士になるためには、身分と家柄は必要不可欠なのだ。

 私は幼い頃から護身術を習っていたせいか、その人の身のこなしや身体つきなどに目がいってしまう。だから、街などで身体つきがしっかりしていて鋭い身のこなしの平民を見かけたりすると、「この人、すごく強いんだろうな」とか「騎士に向いてそう」なんて思ったりした。でも、セントラルでは平民は騎士になれない。


 もちろん、騎士には品格というものも必要だ。でもそれは、貴族だからあって、平民だからない、というものではない気がする。そういうものは、教育次第で身についていくものなのではないか、とも思っていた。

 たぶんこれは、両親の影響だろう。お父様もお母様も、ブラン家に誇りを持っているけれど、家柄がいいから偉い、優れている、なんていう考えは持っていない。むしろ、そういう考えを否定していた。

 実は、お母様のご実家は男爵家で、ブラン公爵家とは階級にかなりの差がある。そのせいで、婚姻を結ぶ際、周りからいろいろ反対があったそうだ。

 それでもお父様はお母様を妻に迎えた。お母様もその気持ちに応え、反対の声をことごとく跳ねのけていった。

 お父様は、ことあるごとにこの話を私とマリアンヌにしていた。それはきっと「大切なのは生まれではない。品格は生き方次第で備わり、また損なうものなのだ」ということを、私たち姉妹に伝えたかったのだろう。

 だから、身分や家柄でラインを引かないエルの考えは、本当に素晴らしいと思った。


「レティシア様」


 凛としながらもどこか柔らかい声に、私はそちらを振り返る。

 そこには、ファビアンが立っていた。その後方には、ファビアンが率いる第三騎士団の姿がある。彼らは少々緊張した面持ちでこちらを見つめていた。


「第一騎士団はまだこっちに向かっている途中で、第二騎士団は別の任務でリバレイを離れている。だから、レティシアには第三騎士団の訓練を見せたいと思うのだが、それで構わないだろうか?」


 エルの言葉に私は頷く。でも、一つ注文を出した。


「はい。でもせっかくの機会ですから、皆さんの訓練を見たいです。日々鍛錬されているのは、ここにいる全員なのですから」


 すると、エルとファビアンが大きく目を見開き、やがて顔を合わせて柔らかな笑みを浮かべる。

 ファビアン以下、第三騎士団の全員が跪き、頭を垂れた。そして、他の騎士たちもそれに倣う。その様は目を奪われるほどに美しかったけれど、大袈裟な気がして戸惑ってしまった。


「さすがレティシアだな。今の言葉で、皆の心を掴んでしまった」

「そんな……」


 エルが騎士たちに顔を上げるよう、言葉を発する。すると、彼らは皆一様に私の方を見つめ、その瞳を輝かせた。これほど注目されるとは思わず、私は驚きのあまり何度も目を瞬かせる。

 そんな私を見て、エルが目を細め、表情を和らげる。すると、騎士団の中からどよめきが起こり、それについ笑ってしまった。


「魔王の微笑みに、皆が驚いていますわ」

「そうだな。だがそれも、騎士たちにとっては一興となろう」

「そのとおりでございます」


 ファビアンの言葉に、私はまた笑ってしまった。


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