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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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19/90

15.聖女としてできること

 およそ百年に一度、人ならざる力を持って生まれるという「聖女」。それが、私のもう一つの顔だ。


 人ならざる力にもいろいろとあり、私の一代前の聖女は天候を操れたという。これはなかなか強大な力で、彼女はこれまでの聖女の中でもかなり大切にされていたと聞いている。

 天候を操ることで、仇なす敵国を葬ることさえ可能なのだから、それも当然といえば当然だった。実際にその力を使い、クラウディアと肩を並べるほど強大だった国の大地を、約半分削り取ってしまったという話も書物に残っている。

 一代前の聖女がこうだったものだから、私が聖女としての力に目覚めた当初、王宮内はかなり色めきたったらしい。だが私の力を確認するやいなや、王宮は私への興味をなくした。それでも私と第一王子を婚約させたのは、ブラン家の名前があったからといっても過言ではない。


 私の聖女としての力、それは、一代前の聖女とは全く異質なものだった。

 一言で表現するなら「育成」。でも、これが正しい表現なのかはわからない。

 物の種類は問わず、私が祈りを捧げて触れたものは、その成長速度、質が向上する。

 例えば、花の種を蒔いたとする。花が咲くまで通常が二ヶ月ほどとした場合、私が意図を持ってその花に触れると、最短で三日ほどで咲かせることができる。倒れることも厭わずに力を放出すれば、たぶんその場で咲かすことも可能だろう。そしてその花は、普通に咲いた時より大きくかつ美しく咲く。農作物でも同じだ。実り豊かに美味しく育つ。


 でも、この力はセントラルでは全く必要とされなかった。セントラルは元々肥沃な土地だし、収穫されたものはどれも美しく味もいい。そして、成長を早めなければならない理由も特にない。

 私は、形だけの聖女なのだ。それでも、国としては私をいい加減に扱うことはできない。ブラン家との関係もあるし、聖女のいる国は神の加護を受けおおいに栄えるという言い伝えがある。……廃れてはいるけれど。


 だけど、私はエルに領地を案内してもらい、領民の話を聞いていく中で、一筋の希望を見出した。


「寒さに強い野菜を育ててはいるのですが、なかなかうまくいかなくて試行錯誤しております。私はもう年で、鉱山で働く力は残っておりません。だから、こうして作物を育てているのですが……」

「ここでもセントラルと同じようにいろんな野菜や果物を育てることができれば、新鮮なうちにそれらを口にすることができます。しかも今よりずっと安く。私どもはそのために頑張っているのです」


 リバレイ領は、良質な石が採れる鉱山に恵まれており、それが産業にもなっている。だが一方で、領内での食糧の供給については心許ない。セントラルやその他の領地に頼っている状態だ。他の領地から提供を受けた食糧は、どうしても割高になってしまうという問題を抱えている。

 気力体力の充実している若い男性がいる家なら、鉱山で稼ぎ、家族を十分養っていける。でもそうでない家は、どうしたって貧しい生活を強いられてしまうことになるのだ。

 といっても、領主であるエルからの補助もあるので、決して飢えることはない。それだけは救いだった。

 格差を全くなくすことはできないけれど、できるだけならす。それがエルの領主としての仕事で、エルは領民からこの上なく慕われていた。


 そこで私は考えた。

 農業も、鉱石採掘と同じように豊かな産業にできないだろうか。それができれば、鉱山で働けない家も農業で豊かになれる!

 農業を、リバレイ領のもう一つの産業にする。


 私は、自分の手をじっと見つめる。

 私の力を利用すれば、それが可能かもしれない。

 セントラルでは無用だった「聖女の力」で、ここで暮らす人々の暮らしを手助けできるかもしれない!

 そう思った瞬間、私の身体に衝撃と甘美な痺れが走ったのだった。

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