表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/90

14-2.リバレイで迎える初めての朝(2)

 記憶が途切れていることに動揺していると、私を抱いている腕に力がこもり、グイとエルの方に引き寄せられた。


「あっ……」

「おはよう、レティシア」


 起き抜けの、いつもより低い声にゾクリとする。

 エルは私のこめかみに唇を押し当て、私の身体を反転させた。深いブルーグレーの瞳が私を見つめている。


「お、おはようございます、エル」

「何か考え事をしていたようだな」

「えっ?」


 私は大きく目を見開く。

 もしかして、エルは今起きたのではなく、私が目を覚ました時にはすでに……?

 エルは優しく私の髪を梳きながら、小さく笑んだ。


「どんな反応をするのだろうと、しばらく様子を眺めていた」

「……私よりも早く目が覚めていたのですね?」

「あぁ」


 揶揄うようなエルの視線から目を逸らし、私は僅かに口を尖らせる。

 子どもっぽいと思えど、様子を窺われていたことが恥ずかしくて不機嫌にもなってしまう。


「レティシアが可愛らしくて、つい声をかけそこなってしまった。そんなに拗ねないでくれ」

「……」

「昨日のことを思い返していたようだな」

「……はい」


 エルは、私のことなど全てお見通しなのだ。


 シャルル様とは年齢差がなかったせいで、どちらかというと私は大人っぽく見られていたし、実年齢の割に落ち着いていると周りからは言われていた。

 でも、エルを前にすると、そんな私などどこかへ行ってしまう。

 エルの方が年上で、大人で、そんなエルと比べると私はあまりにも子どもで。実年齢よりも幼くなっている気さえする。


「機嫌を直せ、レティシア。おとなげないとは思うが、昨夜のちょっとした仕返しだ」

「! 昨夜、私……」


 記憶が途切れているその先、私はいったい何をしでかしてしまったのか。

 薄々と勘づきながらも、私はおそるおそるエルと目を合わせる。

 上目遣いで見つめる私に苦笑いを浮かべながら、エルはまた優しく髪を梳いた。


「夫の戻りを待ちきれず、ぐっすりと夢の中へ旅立ってしまったようだ」

「!!!」


 私は即座に後ろを向き、布団に潜り込んで丸くなる。

 あぁ、そうだ。ドキドキしながらエルを待っていて、どうしようなんてウロウロもして、それで……これまでの怒涛の展開と旅の興奮などで疲れ切っていたのか、どんどん瞼が重くなって、意識も遠くなって──。そこから記憶がないということは、そのまま眠ってしまったということ……。


「ご、ご、ご、ごめんなさい……っ」


 布団の中から悲鳴のような声をあげる。

 私ったらなんてことを!

 初夜だというのに、夫を置いて先に寝てしまうなんて! ……妻、失格。

 小さく丸まって、このままもっともっと小さくなりたいなんて思っていると、布団の上からやんわりとした重みを感じた。


「大丈夫だ、レティシア。出ておいで」

「だ、だって……」

「これからずっと一緒なんだ。何度だって夜は来る。それとも、今からやり直すか?」

「!」


 あからさまにビクッと身体を震わせると、エルの笑い声が耳を擽る。私を抱いているエルの腕も微かに震えていた。


「冗談だ」


 私がもぞもぞと布団から顔を出すと、エルが優しく微笑み、私の鼻先にちょん、と唇を落とす。


「やっと出てきた。……本当に、我が花嫁は愛らしいな」


 エルが布団の中に手を入れ、私の身体を強引に引き出す。そして、腕に囲った。


「疲れていたのはわかっているから、気にしなくていい。レティシアがベッドから出てこないのは困る」

「……はい」


 私は消え入るような声で返事をし、エルの背に腕を回してぎゅっと抱きつく。

 頬が熱い。

 子どものような自分に恥ずかしいのもあるけれど、それだけではない。

 エルが抱きしめてくれるから、私もエルにもっと近づきたくて手を伸ばす。そして何より、この腕の中はどこよりも安らげる場所で、それをしっかりと手に入れておきたくて、離したくなくて──。

 私にこんな強い欲望があるなんて、初めて知った。


「レティシア、そろそろ起きようか」

「はい」


 笑顔でそう答えると、エルが何故か少し困ったような顔で笑い、小声で呟いた。

 その呟きは私の耳には入らないほどの大きさだったので、私はどうしたのかと思いつつもベッドを離れる。

 初日にやらかしてしまった失敗を、何とか取り返さなくては!


「今日は午後から領内を案内しよう」

「はい、よろしくお願いします」


 エルは満足そうに頷き、私の頬に手を触れ、唇に軽く口づけた。


 ***


 余談だけれど、この時聞くことができなかったエルの呟きは、その夜に知ることとなる。


「これ以上は、俺の理性が持たない」


 初夜のやり直しは、それはそれは長い夜となったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ