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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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14.リバレイで迎える初めての朝(1)

 眩い光に、ふと目を開けた。

 まだ頭はぼんやりとしているけれど、私は身体を起こそうとしてふと気付く。──動けない。


「えっと……」


 私の身体には逞しい腕が絡みつき、髪に微かな吐息が触れている。

 背後に誰かいる。いや、誰かなど決まっている。彼以外の人間なら、大問題だ。

 そろりと目だけを遣ると、エルが後ろから私を抱きしめて眠っていた。


「ん……?」


 どうしてこんなことになっているのか。

 私は昨日の出来事を思い出そうと、働かない頭を無理やり働かせる。


 昨日、ネージュに乗って、セントラルからリバレイの地にやって来た。

 コートを着ていたので身体はそれほど寒くなかったけれど、顔に触れるその冷気に驚く。

 冬のセントラルでもこれほど冷えるだろうか。地面も心なしか硬く感じる。まだ大地本来の色も残してはいるけれど、全体的に白い。これが、雪。


『冷たいっ』


 しゃがみこんで直に触ると、想像していなかった冷たさが肌に伝わる。


『まだ序の口だ。本格的な冬になれば、小さな家なら埋まってしまうほどの雪に覆われる』

『家が埋まる!?』

『あぁ。セントラルでは想像もできないような世界だ』

『……怖いような、楽しみなような、複雑な気持ちです』

『だが、楽しみの方が勝っているようだな』


 どうやら顔に出てしまっているようだ。

 エルは笑いながら私の手を両手で包み、さすってくれる。そうすると、冷えていた手がみるみるうちに温かくなっていく。途中でハァと息を吹きかけられ、私は飛び上がりそうになった。エルを見ると、悪戯っぽく笑っている。


『エル、私を揶揄っていませんか?』

『揶揄ってなどいない。温める時は、こうやって息を吹きかける』


 そう言って、エルはもう一度同じことを繰り返す。

 確かに温かくはなるけれど、エルの吐息を直接肌で感じ、温かいのを通り越して熱くなってくる。

 エルは右手を私の頬に当て、小さく呟いた。


『レティシアの反応は、いちいち愛らしいな』


 何気なく呟いた一言だけれど、それだけにエルの本音として伝わってきて、私の頬はますます赤くなってしまった。


 それから、私はリバレイ邸に足を踏み入れ、そこで働く使用人の皆に挨拶、大歓迎されながら邸内を案内してもらう。

 華美なわけではないけれど、ところどころにさりげなく置かれている調度品はどれも一級品で、見る者の目を楽しませてくれる。

 花瓶には初めて見る花が生けてあり、私は思わず近くまで行って眺めてしまった。大きな温室があり、そこで花を育てているのだという。北の最果てにも美しい花があるのだと、私は心から感動した。

 私の部屋に辿り着き、そこでも感嘆の息を漏らす。

 クローゼットも応接セットもちょっとした書き物ができる机、椅子、ドレッサーなども、全て温かみのある上品なクリーム色で統一されており、どことなく可愛らしい。かといって、決して子どもっぽくはない。

 ソファもゆったりとしていて、少し座ってみたけれど、とても座りやすかった。沈み込みすぎず、それでいて適度な柔らかさもある。

 そして寝室。ドキドキしながら足を踏み入れると、落ち着いた空間に鎮座する大きなベッド。薄いシルクのカーテンがかけられ、そっと手をかけるとしっとりと手に馴染む。中に入るとまるで別世界に来たような、そんな気持ちになった。

 寝室の東側に大きな窓があり、そこから見える景色がこれまた素晴らしく、私はしばらくの間そこから動けなかった。きちんと手入れのされた庭が広がっており、そこには先ほど教えてもらった花を育てている温室も見える。

 そしてその後は、エルと楽しい夕食の時間を過ごし、入浴を済ませて寝室へ──。


 私は寝室でエルを待っていた。

 今日からここで、エルと一緒に眠る……そう考えるだけで、身体が熱くなった。

 気持ちは乱高下状態で、今すぐ逃げ出したいような、逆に飛び込んでいきたいような、そんな訳のわからない衝動に振り回される。

 どうしよう。エルと過ごす、初めての夜。そして、妻として……。

 そんなことを目まぐるしく考えていて、それから。

 え? それからどうしたのだろう? ──そこで、私の記憶はぷっつりと途切れていた。

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