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王太子妃になり損ねた公爵令嬢は氷の国で魔王に溶ける  作者: 九条 睦月


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10.旅立ち

 昨日は夜まで楽しい時間を過ごし、そして今日、私は侍女のセシルとともに王宮へやって来た。

 お父様にお母様、マリアンヌをはじめ、元家庭教師で私に護身術を教えてくれたカリーヌ、そして他の使用人たちにも挨拶を済ませ、私たちは二人でここへ来たのだ。


 セシルはずっと私の世話をし、寄りそってくれている大切な侍女だ。彼女が一緒ならどれほど心強いか。でも、さすがにリバレイ領まで連れて行くのは酷だろうと思っていた。

 そんな私をよくわかっているセシルは、なんと自ら一緒に行きたいと申し出てくれたのだ。それを聞いた時、私は嬉しさのあまり泣いてしまい、セシルを困らせてしまった。


『レティシア様は私の大切なお嬢様です。エルキュール様は素晴らしい方ですが、たった一人で遠く離れた氷の国へいらっしゃるのはさぞ心細いことでしょう。それに、私もレティシア様と離れたくないのです。どうか私も一緒に連れていってはいただけないでしょうか』


 セシルにも家族はいる。その家族に了承は得ているのかと聞けば、問題ないと返ってきた。むしろ行きなさいと背中を押してもらったのだそうだ。

 私はなんて恵まれているのだろう。

 聖女ということで大変な目にも遭ってきたけれど、私の周りには多くの味方がいて、皆がとても優しい。この優しさにいつか報えるよう、私自身ももっと頑張らなくては。私がそんな風に決意を新たにしていると──


「レティシア」


 心にストンと落ちてくるような、低くて心地いい声が耳に入ってくる。私は後ろを振り返り、笑みを浮かべた。


「エル」


 目が合うと、エルの視線が和らぎ、口角が上がる。

 黙っていると氷のような冷たさと鋭さを醸し出す表情も、こんな風に優しくなると過剰に甘さが増すと感じるのは私だけだろうか。エルのこんな顔を見る度に、私の胸はドキドキと高鳴り、顔が熱くなってしまう。


「セシル、君も一緒に来てくれるのは心強い。これからもレティシアのことをよろしく頼む」

「はい、もちろんでございます!」


 侍女のセシルにもこうやって優しい言葉をかけ、頭まで下げる。

 使用人に対しても礼を尽くすのは、ブラン家に入った瞬間からそうだった。

 エルに声をかけられた使用人たちは、こぞって歓喜し、あっという間にエルのファンになってしまったくらいだ。特に女性陣はほぼ全員顔を赤らめ、しばらくの間呆けていた。今はしっかりと受け答えをしているセシルだってそうだ。

 エルは人を惹きつける魅力に溢れている。こんな人がどうして今まで一人でいたのかと、首を傾げてしまう。

 その時、エルの後ろに控えていた体つきの逞しい男性騎士と、細身でしなやかながら隙のない麗しい女性騎士が一歩前に進み出た。二人は揃って恭しく膝をつく。


「はじめまして、レティシア様、セシル殿。私は、リバレイ領到着までの間護衛を務めさせていただきます、リバレイ第一騎士団団長、カミーユ・ルロワと申します」

「同じく、副団長のアリソン・モローと申します」


 最強と謳われるリバレイ騎士団の中でも、更に選りすぐり精鋭たちが集まる第一騎士団。その団長と副団長を目の当たりにし、背筋がゾクリとした。それはもちろん恐怖ではない。──興奮で、だ。


「レティシア……リバレイと申します。第一騎士団の団長様と副団長様にお会いできるなんて、本当に光栄ですわ」


 興奮のあまり、うっかり「レティシア・ブラン」と名乗りそうになってしまい、密かに慌てる。セシルはそんな私を苦笑しつつ、彼らに向かって深々とお辞儀をした。


「私はレティシア様の侍女、セシルと申します。到着までの道中、お世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」

「カミーユは外を、アリソンは馬車に同乗して護衛にあたる。何かあれば、気兼ねなく何でも言ってくれればいい。彼らはとても頼りになる。何も心配はいらない」

「はい、ありがとうございます」


 エルはセシルに向かってそう言った。セシルは不思議そうな顔をしながらもそれに応える。エルの視線は自分にだけ向けられている、それが不思議だったのだろう。私もセシルと同じ気持ちだ。

 リバレイ領までの道のりは長い。馬車で七日ほどはかかってしまう。

 国内での道中なのでそれほど危険はないとはいえ、自国にも敵が全くいないわけではない。エルは念には念を入れて、第一騎士団の団長、副団長、あと数名をセントラルに寄越していた。

 エルはリバレイ領を長く空けておくわけにはいかないので、ネージュに乗ってすぐに戻ることになっている。ファビアンもシエルと一緒だ。そして私とセシルは馬車で向かう、はずなのだけれど。

 エルは私と視線を合わせ、ニコリと微笑む。


「レティシアは、私と一緒にネージュに乗ってリバレイへ向かう」

「えぇ!?」


 私は驚きのあまり、大声で叫んでしまう。いつもはそんな私を窘める立場のセシルでさえ、あんぐりと口を開けていた。

 私が、あの神々しいまでに美しいホワイトドラゴンに乗る……?

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