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最後の記憶


ガツンッ!


体全身に走る衝撃に、私は突然吹き飛ばされた。

ふと、時が止まったかのように見えたのは雲ひとつ無い晴れ渡った空の色。あぁ、今日はいい天気だな。

なんて、どこか呑気に思った次の瞬間に私の意識は暗転した

誰かの悲鳴が…私を呼ぶ声が聞こえた気もするけれど、それに答えることも出来ず、呆気なく私はその人生の幕を閉じた。






「ねぇねぇお姉さん、お姉さん」


トントンと肩を叩かれる感覚に、ボンヤリと霞みがかっていた意識が浮上する。

慌てて後ろを振り返れば…背の低い女の子がたっていた。

私の肩に漸く手の届く位小さなその子は、黒いセーラー服を着ていた。漸く中学生に上がった位の子だろうか?

未だ制服に着られた感の残る初々しいその子は、私が気付いたと知るやにっこりと微笑んだ。


「あ、漸く気が付きました?」


「え、えぇ…その、私に何かようかな?」


もしかして迷子だろうか?

道を聞きたいのかもしれないな、とその子の目線に合わせる様に膝をおった。


「あ、どうも。もー、皆さん身長高くていつも首が痛くなるので助かります!お姉さん優しいね!」


「あはは、そっか。それは大変だね」


「そうなのよーっと、それはいいとして…あのねお姉さん」


「うん」


「この度はご愁傷さまでした!死神こと新人ちゃんの私がお迎えに来たよっ!」


「…うん?」


「という事で、はーい。ここに署名をお願いします」


「あ、はい…死神?えっと、なにかの遊びかな?」


自分のことを死神だなんて…何かの遊び?

それともちょっと頭の痛い残念な子なのかな…


「頭の痛い残念な子の発言とか思ってるでしょ」


「い、いや別に?」


ジトッとした瞳で見つめられ慌てて視線を逸らした。

まるで心を読まれたかのようなタイミングの良さに驚いた。


「いいよいいよ、私も最初は思ったことだしさー。それが普通の反応だしねー」


「そ、そっかァ…」


なんだろう…この子、普段から自分は死神だって公言して回ってるの?凄い、手慣れた感がある。

やっぱりちょっと危ない子なのかな?

あんまり関わらない方がいいかも…よし、逃げよう!


「はーい、ありがとうございます!では行きましょうか!」


「えっと、どこに?悪いんだけど、私これから仕事だから」


仕事を理由にさり気なく逃げようとすれば、自称死神のその子は私の手をがっしり掴んで離さない。

そして、ある一点を指さして…こういうのだ。


「それは大丈夫!だってお姉さん死んだから!」


彼女が指し示すその場所に視線を向ければそこには…

『私』がいた。

途端溢れ出す、記憶の洪水に最後の瞬間を思い出す。

あぁ、そうだ。私、死んだんだった…


「…え?」


「交通事故みたいだね、トラックに飛ばされて即死か。

いやぁ、なんとも痛い死に方だったねぇ」


ケラケラと私の死体を見ながら楽しそうに語るその子の姿にゾッと悪寒が走った。


「…あたな、誰?」


思わずそう問いかければ、その子は呆れた顔でやれやれと肩を竦めて笑った。


「さっきも言ったでしょ?まぁ、仕方ないか…では改めましてどうも、死神です!お姉さんを迎えに来たよ!」


その無邪気なまでの笑顔に…嘘は無いのだと知った。

知って、しまった。


「え?何それ…意味わかん、ないんだけど。は?イヤイヤ待ってよこれ夢だよね?絶対夢だよ死んだ?私が?」


記憶はある。そう、私はトラックに引かれたんだ。

違う、それは夢だ。

私は死んでないだって今立ってここにいる。

嘘?目の前のこの子は何?死神?迎えに来た?

嘘…嘘嘘嘘嘘


パキリ…心のどこかで何かが割れる音がした。


「お姉さーん?おーい」


「嘘だ嘘だ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘…」


違う…違う違う違う!アレは私じゃないっ!!

私は死んでない!だって今ここにいる、のにっ!!

この記憶も…嘘だよそうだよ嘘だよ嘘つき嘘つき嘘つき!


「あらァ、発狂しちゃった?面倒臭いなぁ…勵さーん!ヘルプ!」


「もうもうっ!新人ちゃん!だから言ったでしょう?!死にたての魂は精神的にとっても脆いから気を付けてって!!僕言ったでしょ!!自分の死をあっさり受け入れられる子なんて居ないんだから気を付けてって!!」


「モウモウ煩いですよ。牛さんですか?あと、あっさり自分の死を受け入れちゃった子があなた目の前に居ますよ」


「新人ちゃんみたいに皆神経図太くないの!」


「死んだから神経も何も無いですけどね」


「ちょっと、もー!この子は人の揚げ足ばっかりとってぇ!僕怒るよ?!」


「怒るとハゲますよ、勵さん」


「そ、そんな事で僕が同様するとでも…」


「あ。今抜け毛が…」


「いやぁっーー!!」







遠く

遠く


彼らの会話は耳に入っているのに、頭に入ってこない。

目の前の出来事が全て丸滑りしていく。


違う違う私は死んでない…


その時、凛とした鈴のように澄んだ声が聞こえた気がした。

その声は不思議なことに頭な中へ直接話しかけてくるようだった。それは男とも女とも判断のつかない不思議な声だった。


『なんと哀れな…可哀想なお嬢さん、大丈夫ですか?』


誰?また死神とか言うの?


『私をそんなヤツらと一緒にしないで下さいな。私はあなた達の言葉で言うところの“天使”と言ったところですかね』


死神の次は天使??本当、意味わかんない。

皆頭おかしすぎるでしょ。


『…そう思われるのも仕方ありませんね。ねぇ、お嬢さん。

これが夢だとしたら、あなたは何になりたいですか?』


何…?何って、将来の夢でも聞いてる訳?


『いえいえ、そういった事ではなく…そうですね。例えば今流行りの「異世界転生」なんてした日には…何になりたいですか?もし、小説やゲームの中の人物になれるとしたら』


は、あはははっ!!今度は何言い出すかと思ったら…!

異世界転生?あー、完全にこれ夢でしょ!良かったぁ!!

もー自分が死ぬ夢とか最悪すぎ、無駄にリアルだし。


『…』


それで?異世界転生だっけ?

それならやっぱり魔法のある世界にでも行ってみたいなぁ。そんでもって魔法でチートとか?それも楽しそう!

でも、それよりも私はーー


『…いいでしょう。では私が、あなたをそこに連れてってあげます。()()()()()()()異世界転生!どうぞ、楽しんで。次の人生では長生きでるように頑張ってくださいね』


は?なに…


その言葉を最後に眩いばかりの光に包まれて、私の意識はまた暗転した。








「あ、あぁー!!!ちょっと勵さん!魂が誘拐された!!」


「えぇ?!!いつの間に?!ん?これは…“天使”の仕業かな?えぇ、どうしよう…はわわわわ、また上にドヤされるよぉ…」


「勵さんがくだらない話してるから!!また“密猟者”に魂盗まれたじゃん!!もー!回収大変だってのに!また残業だよ!くっそー!!」


「ご、ごめんねっ!不甲斐ない上司で…でもそれはそれとして僕としては譲れない話だったから」


「うるさいっ!このハゲ!!」


「まだハゲて無いってば!!」





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