戦うことで生き延びる
この時の、蛮とチップ竜ような関係は、地球の動物の間でも見られる。体に残った古い皮膚や、ダニなどの虫を、他の生き物が食べてくれるというものだ。
とは言え、それも最初からそうだったわけではなく、いずこかの段階でそれを始めた個体がおり、徐々に定着していったのだろう。その初めの段階が今まさに見られているということかもしれない。
これが定着すると、ヒト蜘蛛の本体の背で古い皮膚や虫などをせっせと食べるチップ竜が見られるようになっていく可能性はある。
蛮も、悪い気はしていないようだ。
ただ、仲間がそうしているのを見た他のチップ竜が同じように蛮の背中に飛び降りた瞬間、
「!?」
振り返った蛮の手(触角)に囚われて、喰われてしまった。その所為で、安全な位置にいたチップ竜も逃げてしまう。
せっかくいい共生関係が築けそうだったのに……という展開だったが、しばらくするとまた、チップ竜が戻ってきた。さっきの、<安全な位置をわきまえている個体>だった。
こうして、<安全なやり方>を把握していって、それが成立していくのかもしれない。
蛮の手(触角)が届く位置なら、自分で古い皮膚や虫を除去することもできるから、好き勝手にさせる必要もない一方で、手(触角)が届かない部分の古い皮膚や虫を食べてくれるなら、蛮にとってもありがたい。
そういうことだ。
そしてこれ以降、チップ竜が時折、蛮の本体側の背中に乗ってしきりに何かを食べている姿が目撃されるようになった。
他のヒト蜘蛛には今のところ見られないが、<程よい距離感>が確立すれば、当たり前に見られる光景になっていくのかもしれない。
そんな様子も、バドはしっかりと記録していた。
などということもありつつ日々は過ぎ、その中でも、蛮は、
<密林の覇王>
のごとく君臨していた。
パルディアにつけられた胸の傷も、まるでただの模様のようにも見えるくらいに自然だった。まあ、よく見ると他にも無数に傷痕はあるのだが、乳房に残った傷は特に目につく。
それがまた凛々しさを演出しているようにも感じられる。
と、
「!!」
蛮が何かを察し、体を緊張させる。その視線の先には、猪竜の姿。以前の巨大猪竜に比べれば大きさは普通だったが、蛮に見付かったことを悟ると、
「フゴアッ!!」
声を上げてこちらも身構えた。蛮の敵意に反応したようだ。このタイミングだと逃げれば逃げ切れたと思われるが、これが猪竜の気性ということだろう。わざと危険な相手に近付いてはいかないにせよ、偶発的に遭遇し、それが相手の間合いだったり逃げ切れないと自分が判断すれば、戦うことで生き延びる道を選ぶということか。




