ドーベルマンMPM四十二号機
そして、そんな蛮を、少し離れたところから見守る影があった。シルエットだけを見ると、若干、ヒト蜘蛛に似ているようにも見えるかもしれないが、よく見ればまったく違うことも分かる。
何しろ、その体は完全に<人工物>で出来上がっているのだ。
ぱっと見は<ヘルメットとゴーグルを着けた人間のようにも見える頭ながら、それらは『身に着けている』のではなく、それ自体が体の一部なのだから。
さらには、首から下は最低限のカバーしか付けられておらず機構が剝き出しの、機械そのものの体。腕は二本だが、脚は四本。しかも足の先には、ご丁寧に車輪まで付いている、二腕四脚の異形。
誰が見てもすぐに分かるであろう<ロボット>だった。
ロボットの名は、<ドーベルマンMPM四十二号機>。彼、蛮を観察するために付けられた、<汎用作業ロボット>である。
そこで、蛮とドーベルマンMPM四十二号機との出会いから触れていこう。
蛮とドーベルマンMPM四十二号機……長いので、
『蛮を観察するドーベルマンMPM四十二号機』
略して<バド>と呼ぶことにしよう。
ある日、いつものように縄張りの監視を行っていた蛮は、やけに大きな<鳥>が空を飛んでいることに気付いた。だが、いつもは食えるかどうかしか考えることのない彼の頭が、
『あれは良くないものだ』
と警告を発した。なのですぐに身を隠す。と言うのも、それを見た途端、彼にとっては本当に<ムカつく相手>が頭をよぎってしまったのだ。姿形は全く似ていない。<ムカつく相手>の方は羽も生えてないし空も飛ばない。なのに何か近いものを感じてしまったのは、本能のなせる業だろうか。
こうして身を隠したのだが、同時に、そうやって逃げるように身を隠した自分自身にムカついてしまった。
なぜ自分が逃げ隠れしなければならないのか?
そうやって明確な言葉として思考することはできないものの、意味合いとしてはまさにそれという衝動に駆られ、彼は身を隠していたところから飛び出し、再びあの空を飛んでいるものを探した。
しかしそれはすでに飛び去ってしまったらしく姿が見えない。改めてよく探そうとして彼はするすると木に登り、樹上から頭を覗かせた。と、その正面から、何かが迫ってくる。
「!?」
彼は危険を察知し咄嗟に頭を下げた。するとかすめるようにしてそれは通り過ぎて、と同時に、何かの塊が落ちるのを彼は見た。そして<塊>は密林で見えなくなってしまって。飛んでいた方はなんだかやけにスリムになって、そのまま飛び去ってしまったのだった。