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幸せにもし味があるなら、きっとあんな味がするに違いなかった。

作者: らわがお

2月下旬、夜の10時、気温は3度。

最寄り駅に着き、なんだか寂しくて彼に電話をした。

「マンションの前まで行くからちょっとだけ会いたい」

ごねる私に優しく快諾する彼の声を聞いて、靴の裏が擦り切れそうに歩いていた足取りが急に軽くなる。重く沈んだ心から瞬く間に羽が生えて、どこまでだって行けそうな気がする。こんな時に家が近くてよかったと思う。

しばらくすると道路の向こうから彼が歩いてくるのが見えた。マンションまで行くと言ったのに途中まで迎えに来てくれた。ああ好きだな。嬉しい。彼に飛びつくと、優しくて、暖かくて、柔軟剤のいい匂いがした。

「家に帰りたくないの」そっと呟くと、彼は私の手を引いて荒川沿いの土手まで連れて行ってくれた。見渡す限り誰もいない。階段に腰掛けてお喋りをした。凍えるような寒さの中、澄んだ2月の夜空には都会の割に星がよく輝いて見えて、あのオリオン座を、月の光を、ずっと覚えていたいと思った。たわいもない話をしているのが楽しくてしょうがなくて、何度かキスをした。気づけば日付を超えていた。最寄り駅に着いた時の寂しさはどこかへ消えて、家に帰る勇気が湧いた。

コンビニで肉まんを買って、半分こにした。お腹がすいていたので大きい方を食べた。その代わり紙でくるまれている方を彼に渡した。一口頬張るとあたたかくて、幸せな味だった。幸せにもし味があるなら、きっとあんな味がするに違いなかった。

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