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俺様>>皇太子と王族についておしゃべりする

 豪華というか荘厳というか、すごいの言葉しか出てこない王宮の廊下に、ミアは圧倒されていた。

「ここは通用口みたいなものだから、装飾は控えめでしてよ。この先から、警備が厳しくなるんですわ」

「アンタ、王宮に来た事あるの?」

「ここのはありませんことよ。でも大体一緒なのですわ! 間違いありませんわ!」

 自信満々なアンネマリーの言葉に対し、ミアは若干懐疑的である。とはいえ王宮に無断で侵入している身分である為、ここはもうアンネマリーの言葉を信用するしかなかった。

「で、どうするのよ」

「そこの扉から出たら、即警備兵に捕まるのでしてよ。だから答えは、ここですわあああああ!!!!!」

 ヒソヒソ話してるのに耳が痛くなるような声という、わけがわからない特技を発揮してアンネマリーが指差したのは、廊下の下側についている換気用の小さな窓だった。

「待って、まさか」

「ここを潜って行くのでしてよ、さあああ」

「痛っ、ちょっ、押すんじゃないわよ」

「オホホホ、私ミアと違ってスレンダーでしてよ! するりと出れちゃうのですわ」

「アンタは必要なところにすら付いてないじゃないのっ!!」

「こういうのも需要があるから供給されてるんですのおおお!!!!」

 言い争いをしながらも外へと出ると、アンネマリーは茂みに潜みながらもスイスイと進んでいく。いや本当にこの王宮来たの初めてなのと、ミアは眉を寄せた。

『殿下は歴史書に目を通し、様々な居城建築について知っていますから、もしかしたらそちらの王宮の建築様式を見て、ある程度の見当が付いているのかもしれませんよ』

 すかさず入ってくる脳内会話に、ミアは耳を塞ぎたくなったが、どうにもならないので諦めた。

『なんでそんな知識があるのよ。……ねえもしかしなくてもさぁ、自分に相応しい豪華なお城を建てるために、そういう知識仕入れたとかじゃないわよね』

『さすが会員No.6!!! 殿下の御心をしっかりと理解しているとは…!!! 素晴らしい、さすが殿下! ああ、殿下! 殿下!! 殿下!!!!』

 いらない殿下コールが三重奏になったので、ミアは心を無にした。こっちだというアンネマリーの案内のされるがままついて行くと、幾つかの扉や廊下や庭を突っ切り、遂には中庭らしき場所へと辿り着いた。どう考えても、お城の最奥である。

「オホホホ、私に掛かればこんなお城、小一時間でおとしてみせるのですわぁ!!」

 アンネマリーはカリーナから、皇太子アミルカルは中庭で散歩をするのが日課だという情報を仕入れていた。カリーナは一緒にお散歩したいだなんて頬を染めていたが、なんでもアミルカルは随従ですら同行を拒否しているから難しいだなんても言っていたのだ。

 それつまり、アンネマリーが近付くのは簡単というわけである。


「来ましたわぁ!!!!」

「うっそ、本当に!?」

 中庭の手入れされている庭木の影に隠れていると、本当にアミルカルが一人で歩いてきた。周りに護衛の姿すらない。

「中庭の出入り口に目を光らせているのですわ。オホホホ、既に侵入している私達には、まるで無駄でしてよ!!!」

「暗殺とかそういう物騒な事しに来たわけじゃないのよね、私達」

「…………」

「ちょっとやめてよ、そこで黙るのやめて!?」

 アンネマリーが高笑いをしないと、物凄く不安が募る。いや高笑いしていても不安は不安なんだけど、ミアはもはやアンネマリーの言動に対し不安しか抱けていない。

 一人で歩いてくるアミルカルを見て、アンネマリーは木に登った。何故ならばそこに良い感じの木があって、アンネマリーは高いところが大好きであったからだ。


「オーッホッホッホッホッホ!!!!! のこのこと現れやがったのですわ、アミル殿下!!!!!!」


 木の枝の上で立って高笑いするアンネマリーを見て、アミルは呆然としている。が、すぐに警戒を顕に、アンネマリーを睨みつけた。

「一体どうやってここへ…?」

「この私の天才的な頭脳と! 聖女の加護のおかげでしてよおおおお!!!!」

 ビシッと指差されたミアに、アミルの鋭い視線が突き刺さった。まったくの無関係というか巻き込まれただけなので、本当に冤罪である。

「人を呼びますよ。王宮に侵入など、どのような罰を受けるかわかってやっているのですか」

「オホホホ、ご安心なさい! 私、全てわかっていましてよ! 今日は貴方の味方しに来てあげたのですわあああ!!!!」

「どういう風の吹き回しで? 僕が貴方にした事を忘れた訳ではないでしょう。父に公爵家から抗議があり、僕は事情がわかるまで謹慎せよと言われたんですよ」

「あらあらまあまあ、それはお可哀想にですわぁ。でもでもでもぅ、それで言う事を聞いちゃう良い子ちゃんにはぁ、お父様に甘えるだなんて無理中の無理ですわねぇ〜?」

 アンネマリーが半笑いで、さらに可愛こぶった声色で話しているのを見て、ミアは煽りまくっているわと感心した。一国の王子に対し、凄まじい態度である。しかしながらアンネマリーの中身は、一応王子だったのだから、まあ良いのかしらと一瞬思って、いや駄目だろと己に対し反論した。いけないいけない、思考がアンネマリーに寄り始めていると、寒気のあまりミアはブルリと震えた。

「国王様はぁ、不倫とか隠し子とかそういうの、嫌ってらっしゃるのですわね?」

「……お祖父様の所行を知っているでしょう。公然の秘密というやつですよ。女狂いの享楽王。それが祖父です。だからなのか、死後は庶子だと名乗る詐欺師共が、父を煩わせている。好き勝手してようやく死んだっていうのに、死んでからもこっちに迷惑をかける…! どこまでも、どこまでも僕達を苦しめる……!!」

 アミルの顔は歪んでいた。

 下働きの女を孕ませたというが、実際に手を付けたのは何人いる事やらと言われているのは、ミアでも知っていた。そう、碌に教育を受けずに育ったミアですら知っている先王の存在。

 先王に娘を貢ぎ便宜を図ってもらおうとした貴族がたくさんいたとか、お忍びで街で遊びに来ては女性を口説き城に攫って行くとか、そいう噂話はたくさんあったのだ。

 しかしながらアンネマリーはそれらに嫌悪した様子はない事を、ミアは不思議に思った。何せアンネマリーの性格上、そういった事に激怒しそうだったからだ。

 それはアミルも同じだったようで、反応のないアンネマリーを見上げていた。アンネマリーはそんな二人の視線を気にした様子もなく、木から降りてくる。

「いや降りてくるなら登らないでよ!」

「登場にはインパクトが必要でしてよ!!」

 ずりずりと危うげな様子で木から降りてきたアンネマリーは、そのままアミルの側へと近付いた。そして腕を組んだまま、繁々とアミルを見つめた。

「ふうん、国王様は先王が嫌いなのかですわね。まあ息子が父親を嫌うっていうのは、割と良くある話でしてよ! 父親って娘からも嫌われるし、大変ですわねぇ。まあ、私とセバスチャンはそうならないので、問題なしなのですわぁ」

 それは今何か関係あるのだろうかと、ミアもアミルも思った。この時ばかりは、二人とも同じ思いであったのだ。

「それで、アミル殿下はお祖父様の事、好きですの?」

「あんな自分勝手な人間……、最低で最悪な……」

「性格がどうこうって話じゃないんですのよ。好きか嫌いかって話ですの、そこんところお分かりになりやがれですわ」

 アンネマリーにじっと見詰められ、アミルは耐え切れず顔を俯けた。服を握り締め、絞り出すように言った。


「……僕には、…僕には優しくて、好きだった…」


「ふうん、やっぱり思った通りですわぁ。口煩い息子より孫の方が可愛い、典型的なダメ爺のパターンでしてよ! オホホホ、ちなみにこれは婆パターンもありましてよ! それはこの私が体験してますから、説明は不要ですわね!!!!!」


 涙目だったアミルは、アンネマリーの言動に呆然とするばかりだ。アミルカルとしては、言いたくもない事だったに違いないが、そんな事はアンネマリーの知ったことではない。

「ま、お前のお祖父様は、生まれながらの王族ってやつですわね」

「ど、どこが!? あんな自分勝手で、王族として貴族の模範になるべき存在なのに……」

 アンネマリーはアミルを見て、呆れたようにため息を吐きながら首を振った。

「お前、王族に生まれたのに何にもわかってないのですわねぇ。私の元弟にそっくりでしてよ」

「……アンネマリーに弟がいるだなんて話は聞いたことがないのですけど。えっ、元男……?」

 性別に対しての疑惑の目がミアに突き刺さった。

「私は女の子です、殿下!!! 何なら証拠見ますか!!???」

「えっ!!!??? ちょっ、…それは、それはね」

「オホホホホ、アミル殿下も男の子ですわぁ。そういう事に興味深々なのでしてよぅ」

 鬼気迫る顔で詰め寄るミアに対して、顔を真っ赤にして焦るアミルの姿を見て、アンネマリーはわかったように頷いている。実際は何もわかってないけれども、それを気にする人間がそこに居ないので、何の問題もなかった。

「ともかく、お前のお祖父様は生まれ付いての王族ですわぁ。だって王族でしてよ! この国の中で生まれながらにしての頂点! 高貴なる至高の存在!!! どのように振る舞おうとも、それは王族だからこそ赦されるのですわぁ!!!! ……だから貴族如きが、王族の行動に文句を付けるだなんて、勘違いも甚だしいのですわぁ」

 王族だなんて、自ら望んで生まれてきたわけじゃない。王族だからこうしなければならないだなんて、そんなの勝手な言い分である。王族だと敬うのならば、何をしても赦すべきだとアンネマリーは思っている。

「一々、貴族やら平民の顔を気にするみみっちい事をするのは、王族として相応しくないのでしてよ」

「そんなんだからアンタ、異世界送りにされるんじゃないの」

「オホホホホ、今頃私のような素晴らしい存在を抹消した事を、後悔してるのですわぁ!!!!!」

 アンネマリーの高笑いを、そんなの暴論だというアミルの言葉が止めた。


「そんなの、そんな事をしていては、民の心が離れてしまうじゃないですか!! だから父上は、お祖父様の尻拭いに必死になっていらぬ苦労を……」


「アミルカル殿下は、まだ政務らしいものをした事がないのですわね」

「な、何を根拠に」

「民の心がどうこう言っているからでしてよ。民衆なんてものは、自分が明日、明後日、一年後もちゃんと食べるご飯があるかくらいしか、考えてないのですわぁ。どんなのが王様だろうと、知ったこっちゃないのでしてよ」

 そんなわけないとアミルが否定するが、ミアはそういえばそうねと肯定した。王様っていう存在がいるのは知っているけれども、彼らが何をしてくれるのかなんて、知らないのだ。だって王様は、お腹が空いてひもじい思いをしているミアに、パンなど分けてくれた事もない。

「尻拭いなんて、誰が頼んだのでしてよ。本当にいらぬ苦労ですわ! 方々に良い顔をしようなんて事をするから、何も思った通りに進められない」

 アンネマリーはニヤリと笑って、アミルを見た。


「大臣の顔色を気にして、見た事もない民衆の声を気にしていては、何にも決断出来ないのでしてよ、アミルカル殿下。だって誰もが納得できる答えなど、この世にはありはしないのですわ!」


「……そんな」


「まあそんなことよりも、アミル殿下はお祖父様の事を慕っていて大好きである、でよろしくて?」

 アンネマリーからの問いに、アミルは顔を顰めながらもこくりと頷いた。

「それでもってお父様も好きだから、板挟み状態ってわけですわねぇ。そのジレンマを、テオに向けちゃ駄目でしてよ。まったくお子様なんだから。プークスクスものですわぁ」

「アンタそれ物凄くムカつくの、わかってやってる?」

「まあでもでもでも、この私が! それを解決して! 差し上げますわ!!!!!」

 胸を張って言い切ったアンネマリーは、行きますわよとアミルの手とミアの手をとり走り出したのだった。


 ちょっとだけアミルが嬉しそうに見えたので、ミアは皇太子の行く末を憐れんだ。

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