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俺様>>好きを自覚する

 その日のアンネマリーは上機嫌のまま、ベッドに入り込む。

 残念ながら夕食は一人で摂ることになって少し寂しかったが、好物ばかり出たので気分は上昇していたのだ。


 公爵と公爵夫人は別室でお話中だ。間違いなくアミルカルの事だろうけれども、暗殺だとかしてこないし、権力を振り回して暴君ムーブをかまして来ない。

 だからなのか、つい微笑ましく思ってしまう。アンネマリーの元の世界の弟も、そういう詰めの甘さがあったので、遊んであげていたのだ。

 アミルカルは、アンネマリーに醜聞を擦りつけようとしたみたいだが、別にそんなもの、元の世界で散々言われていたので慣れていた。元婚約者の妹は、慣れて良いものじゃないと同情してくれていたのだが、アンネマリーは本当になんとも思っていなかったので、その同情には首を捻るばかりであったが。

 だってアンネマリーにとってそれらは、何一つ大事ではないし、何一つ心に響かない。どうでも良い存在に何を言われようとも、どうでも良いのだ。

 それにしても醜聞に塗れ失意に沈むアンネマリーと、先王の庶子と結婚させようとは、なんともまあ可愛らしい計画である。後で遊びに行った時にでも、計画の穴とかを指摘してあげようとアンネマリーは思った。

 

 さてそれよりも、明日からはセバスチャンが一緒である。何をして遊ぼうとワクワクしていたアンネマリーだったが、ふと気が付いた。

 今までセバスチャンは、皇太子の取り巻きという大義名分があったので、一緒にいる事ができた。まあ大半は引き篭もっていたので、リュートが分身したものであったけどもだ。

 さりとて今のアンネマリーには、セバスチャンと一緒にいる大義名分がない。アンネマリーとしてはそういうは必要がないが、世の中は常にそれを必須としているのを知っていた。

 アンネマリー一人の醜聞くらいならどうでも良いが、セバスチャンはとても繊細な生き物である。不特定多数の誰かに責められるのは、きっと耐えられないだろう。

 でもそんな繊細な生き物が、自分の為だけに世界を越えて来たことに、アンネマリーの胸は高鳴った。顔に熱が集まり、ベッドの上で転げ回りたいくらいの喜びが満ち溢れてくる。


「こ、これはもしや…、わ、私は、セバスチャンが、す、す、す、……しゅき……っ!?」


 動揺のあまり噛んだがそれどころじゃない。好きという言葉を言おうとするだけで、心臓は早鐘のように鳴り響いていた。

 そもそもアンネマリーは、セバスチャンの事が普通に好きである。好意に普通もなにもないと思うが、園遊会で話をした時から好きであったのだ。

 何せちゃんと、アンネマリーとお話をしてくれたのだ。他の子供だって挨拶やお話はしてくれたが、我儘王子に関わりたくないとばかりの態度が見えていたし、気の弱そうなのは声を掛けるだけで青褪めていた。擦り寄ってくる子もいたけれど、退屈な話ばかりである。

 もう少しまともに相手をしてくれる奴は居ないかと思いながら、最後に話しかけたのがセバスチャンであった。最後にしたのはセバスチャンが、ラグナルス家から疎まれているという情報を耳にしていたからだ。周囲に話しかけるなオーラを撒き散らしていて、社交的でもなさそうだ。

 多分だが話の途中で切り上げたら、親から何か失態を犯したと叱責されるだろうなと思ったのである。

 アンネマリーは、とても気遣いの出来る皇太子であった。無理矢理に同年代の子供を集めたのも、この先この子供達が勝手に増えたり減ったりしないかを、見るためであった。

 世の中には生まれや容姿で子供を隠したりする連中がいる。そして皇太子と同年代であるからと、いつの間にか娘や息子が増える連中もいるのだ。多分間違いなく、皇太子が教育機関に所属したら増える。

 そういう時の為に、今いる子供の顔を見知っておこうと思ったのである。一手どころか三手先を読む己の素晴らしさを、自画自賛しておいた。

 さてそんなわけで、一番最後に話し掛けたセバスチャンは、目も合わせてくれなかったが。アンネマリーが聞けばなんでも答えてくれたのだ。好きな本はと聞いたら、聞いた事もないタイトルの絵本をあげた。詳しく内容を聞けば、熱っぽく早口で語ってくれ、本当にその本が好きなのだなという事がわかったのだ。

 好きなものを語ってくれる、それがとても新鮮で楽しくて仕方なかったアンネマリーは、翌日からセバスチャンの家に通い出した。

 セバスチャンはアンネマリーに慣れてくると、色々な事を教えてくれるようになった。それらはアンネマリーが知らない絵本の話だったり、高等な魔導書の知識だったり。そのチグハグさが面白くて、アンネマリーはますますセバスチャンに夢中になった。


 そして共通していたのは、二人とも外の世界を知らない、という事だった。


 アンネマリーは皇太子であったので、王宮の中でしか過ごしていない。本来なら避暑地へ行ったりだとかそういうのがある筈だが、家族関係が微妙な為に様々な理由を付けて置いていかれたのである。母と祖母の折り合いが悪く、アンネマリーが祖母に可愛がられまくっていたというのもあった。子供心に、嫁姑のいざこざに子供を巻き込むなと思ったけれども。

 それ故に、アンネマリーは狭い世界しか知らず、外の世界に憧れていた。そしてそれは、セバスチャンも同じであった。

 絵本で見知った外の世界に憧れて、そこに行こうと魔法を創造しようと思う程にだ。

 セバスチャンは夢を本気で語っていたし、アンネマリーはそれがとても素晴らしい事に思えた。だからこそアンネマリーは、全力でセバスチャンの夢を支援しようと考え、取り巻きに指名したのだった。

 毎日一緒に、想像の外の世界を話し、色々な事をしたいと笑い合ったのは、とても良い思い出だ。成長して王宮の外に出る事ができても、やっぱり語り合った時間はとても楽しかった。


 そもそも取り巻きに指名するのは、好きじゃなきゃしていない。そういった意味では、他のリュートやサシャ、イラリオンにシードの事が好きである。

 だがそれは友情の範囲を越えていないような気もする。

 

 アンネマリーはベッドの枕を抱きしめて唸った。


 セバスチャンだけが特別なのだろうか。しかしそうすると、自分は皇太子であった頃から、セバスチャンにそういった好意を持ち合わせていたのだろうか。

 セバスチャンの黒い瞳を思い出し、アンネマリーは再びベッドの上を転がった。顔を思い出すと胸がドキドキしてしまい落ち着かない。皇太子の時はこんな事なかったのに、これはアンネマリーになった影響だろうかと考えた。

 しかしよくよく考えてみると、元の世界で婚約者の令嬢の事も、その義妹の事も、別に好きではなかった事に気が付いた。義妹の方はおもしれー女だなとは思ったけども、それくらいである。

 好きか嫌いかで分ければ、取り巻き兼友人達が圧倒的に好きの範囲にいる。皇太子から王になっても、関係は変わらずともずっと一緒にいられると思っていたのだ。


 なるほどと、アンネマリーは結論を出した。


 セバスチャンとは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。何かしなければ一緒にいられないのならば、するに決まっている。


 アンネマリーは好きなものに囲まれて生きていたいのだ。何をしたって明日死ぬかもしれないし、不幸が訪れるかもしれない。だからこそ、嫌な事を我慢だなんてしたくない。やりたい事をやるのだ。

 そして自身の心が、セバスチャンを好きだと訴えている。皇太子であった頃から、生まれの身分も性別も関係なく、この心が好きだと訴えた相手が好きなのだろうなという考えであったのだ。

 ならばなんの問題もない。


 未婚の男女がずっと一緒にいる方法。

 アンネマリーとセバスチャンが、一緒に遊んでいても許される関係。


 それはつまり。


「けけけ、結婚するっきゃないのですわ」


 結婚と言葉に出した途端、アンネマリーの頭が沸騰した。枕に顔を埋めて、そうなった時の事を考えて手足をバタつかせた。

 セバスチャンと二人並んで結婚式を挙げるのを想像し、思いの外恥ずかしくて堪らなかったからだ。乙女の妄想力は留まる事を知らない。


 世界を越えてくるくらいだから、セバスチャンだってアンネマリーの事が好きな筈である。ならばきっと結婚してくれるのではないだろうか。


 そこまで考えて、アンネマリーは真顔になった。


 セバスチャンが、魔法女海賊ストロベリーちゃんにしか、女性として興味を抱けない、という事を思い出したからだ。

 そもそも今の自分はまごう事なき女である。セバスチャンの苦手な女である。


 こんなところに障害があったとは。


 アンネマリーは緩んだ顔から一転、険しい表情で枕を引きちぎらんばかりに引っ張った。

 性別を変える事は、この世界では不可能だ。ならばセバスチャンには、苦手な女を克服して貰わねばならない。それがどんなに難しい事か、長年セバスチャンを見てきたアンネマリーだからこそ、理解していた。

 近付いただけで汗が吹き出る。震えが止まらない。基本無言で会話が出来ない。セバスチャン曰く、何を話して良いかわからないとの事だったのだ。そして内弁慶気質だからか、同性であったとしても、取り巻き連中としか会話出来ていなかった。

 そんなセバスチャンが、アンネマリーが結婚を持ち掛けたとして、頷くだろうか。頷かないだろう事は簡単に予想出来た。


 しかし諦めるという文字は、アンネマリーにはない。好きな人と一緒にいたいのだ。


「オーホッホッホッホッホ!!!! 明日から覚悟しなさいですわ、セバスチャン!!! お前の心を射止めてやるのでしてよー!!!!」


 ベッドの上で立ち上がったアンネマリーは、高笑いをしつつ絶対に結婚してやると決意したのだった。

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