表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/48

俺様>>セバスチャンの滞在を許可させる

 ミアが頭を抱えてのたうち回っていると、クライセン公爵夫人がやってきた。

 そしてセバスチャンを見て、この方はどなたと訊ねてきた。アンネマリーは天才なので、それも他に類を見ないほどの天才なので、正直に答えたって信じてもらえないであろう事はわかっていた。

 だって異世界の自分の家来が心配してやってきただなんて、クライセン公爵夫人には理解出来ないだろう。

 なのでアンネマリーは、最初に言った通り、ミアが呼び出した使徒だと言い張った。

「さっきの地面に突き刺さっていた石が変化して、こうなったんですわ!」

「は、はじめまして、石がこうなりました、セバスチャンです」

「そんな、名前までっ!? い、いいえ、騙されませんよ! どこから来たんです。ミア、貴女は知っているのでしょう!?」

「……えっと、空から降ってきた石が変化してこうなって」

「石が美形の若い男に変わるだなんて、そんな巷の恋愛小説みたいな話があるわけないでしょう!!!」

 公爵夫人の叫びに、むしろ巷の恋愛小説を読んでいるのかとアンネマリーは思った。ミアも思った。そしてセバスチャンも思った。だが誰もがみなとても思慮深いので、そこは気にしないでおいてあげた。優しい世界のはじまりである。


「えっと、あ、そうだわ。ねえアンタ、セバスチャンだっけ。何か魔法見せれば、納得されると思うのだけど」

 ミアが良い事を思い付いたとばかりに、セバスチャンに言う。歴代最強の魔力の持ち主だとか言っていたし、魔法使いなら凄い奇跡を起こせそうだと思ったからだ。だがセバスチャンは無言で首を横に振る。

「すみません、魔法は使えないんです」

「はっ?」

「異世界への転移で僕の持っている魔力全て使い果たしましたし、この世界に適応する為に人体を再構築したので、そういうの何も出来ませんぞ」


 つまりセバスチャンはただの不審者。


 なんて事なのとミアは頭を抱えた。

『ちなみにミア、貴女に加護が発動するのは、その世界でも類い稀な魔力持ちだからですよ』

「はあ?」

 唐突に話しかけられたが、声で判別できるくらい慣れてきた。慣れたくなかったけれども。

 イラリオンが言うには、ミアはほんの僅かながら魔力がある為、異世界と繋がる事が出来たのだという。そしてセバスチャンが異世界に転移した事で、ミアへと繋がる糸が強化され、常に会話できるようになったそうだ。

『しかしながら殿下には魔力がない。……私たちの声は、殿下には届かないのですよ』

 ミアは思わず言葉を失った。

 アンネマリーの近くにいるミアには届いても、一番届けたいアンネマリーには届かないだなんて、それはとてもつらい事ではなかろうかと。

『まあ声が届かなくとも、想いは届いてますけどね! 殿下! 殿下!! 殿下!!!』

 うるさいと言いたかったけれども、なんとなく言うのも憚れる雰囲気でもあり、ミアは顔を引き攣らせるだけに留めた。ミアは自分の事を、私ってすごく優しい女の子だわと思った。

「そんなわけで、現在の僕は、会員限定のおしゃべり機能しか付属されていませんぞ」

「役立たずどころの話じゃないわこれ」

「でもセバスチャンは凄いんだぞですわ! 色々と物知りなのでしてよ!!」

 公爵夫人の眉間の皺は、どんどん深くなっていく。

「貴女達、私を騙そうとしたって無駄ですよ。そこの貴方も、どうぞお帰りくださいませ」

 帰れといっても、もうセバスチャンは帰る場所などない。そしてアンネマリーは、再び出会えたセバスチャンと離れる気はない。

「ヤダヤダヤダですわあああ!!!! セバスチャンと一緒にいるのおおおお!!!!! 使徒を追い出したら神罰がくだるのですわああああ!!!! 孔雀も飼って良いと言ったのなら、セバスチャンも一緒に暮らして良いでしょうでしてよおおおお!!!!」

「どういう理屈なのですか!? 孔雀と美形の若い男を同列に扱うんじゃありません!! ままままましてや飼うだなんて、…飼うだなんて、……飼うだなんてそんな」

 クライセン公爵夫人はセバスチャンを一度見てから、目を閉じて上を見上げた。何だかわからない葛藤があったらしい。

「ともかく!! 未婚の男女が一つ屋根の下だなんて、許しませんよ!!!」

「じゃあ私のベッドの下に住んでもらうのですわ!!」

「もっとダメです!!!!」

 激しい言い争いをしている公爵夫人とアンネマリーを尻目に、ミアはセバスチャンに話しかけた。

「そうだわ! 物知りなら、なんか役に立つような事を言って、どうにかクライセン公爵夫人を納得させてよ」

「……すみません、ミア嬢。実は隠していた事があるんですが…」

 深刻な顔をしたセバスチャンに、ミアはごくりと唾を呑み込んだ。一体どんな重大な事を打ち明けられるかと身構える。

「そもそも女性と話すのが苦手で、特に公爵夫人のような貴族ですわと言わんばかりの方は、顔を見るのも近付くのも無理寄りの無理でして、ああああ怖い無理怖いですぞ」

「役立たず以下の更にその先があったの驚きだわ」

『ふふふ、セバスにも困ったものですね。ここは殿下の腹心たるこの私リュートが作戦を授けましょう』

 新たなるやべえ奴が参戦したわと、ミアはキュッと唇を噛んだ。



「クライセン公爵夫人、彼は私がお義姉さま、そしてこの家の方々を護るために召喚した使徒なのです。聖女の力の一端を、いまここに示しましょう」


 ミアは手を組み祈りのポーズを取ると、セバスチャンに視線を向け頷いた。


「聖女ミアに力の加護を与えましょう!!」


 セバスチャンが手を掲げた瞬間、ミアの右手に光が宿る。そしてミアが気合の声を上げ、崩れている壁の一部へ拳を繰り出し、粉砕した。


「い、一日に何度も見せられませんが。これこそが使徒より与えられし力です! 彼が居なければ、この奇跡は起こせません! どうか滞在の許可を!!」


 クライセン公爵夫人は思った。

 こういう時、戦うのって使徒の方じゃないのかと。

 しかしながらミアが壁を粉砕するほどの力を発揮したのは真実であり、まごう事なき事実であった。聖女の力とやらをそこまで信じてはいなかったけれども、局地的落雷に続き、か弱き娘による壁の粉砕。

 クライセン公爵夫人は、目の前で起きた事から目を逸らすような人間ではなかった。それ故に、認めざるを得なかったのだ。


「……わかりました、使徒様。先程までのご無礼をお許し下さい。どうぞ我が屋敷に逗留下さいませ」


「ヤッターですわ!! セバスチャン凄いのですわああああ!!!!」


 喜ぶアンネマリーに対し、頑張ったのは私よとミアは思った。セバスチャンは何もやってない。ただ手を掲げただけである。タイミングを合わせて会員達が、殿下を護るためだとコールを連呼し、その結果ミアに加護が発動したのだ。

「……アンタ、後でしっかりとこの貸しは返して貰うわよ」

「は、はいっ」

 ボソリとミアが言えば、セバスチャンは青褪めて縮こまった。


「今日は私のお部屋に来て一晩中遊ぶのでしてよ!!」

「駄目に決まってるでしょう!! 部屋は別ですし、若い男女が二人っきりで一晩中遊ぶだなんて以ての外です!!!!」

「じゃあ孔雀を誘うのですわ!」

「孔雀は駄目です! せめて人間になさい! そして女性と男性二名以上つけなさい!! そして夕食の後一時間程度ですよ!!!」

「ヤダヤダ、一時間じゃ足りないのぉ!!!!」

「アンネマリー!! 貴女の就寝時間は早いでしょう! 一時間が限度です!!」

 再びはじまった公爵夫人とアンネマリーの言い争いに対し、セバスチャンは何も言わない。女性が苦手といいつつ実は好色なのかしらとミアが見れば、ピクリとも動かず立ったまま気絶していた。

「えっ、……えっ!? お、お義姉さま!!」

「うぅー、セバスチャン! もう、セバスチャンは繊細だから! 顔見知りの男友達以外がいる空間では、意識が保てないのでしてよ!! 公爵夫人が遊ぶのに他の人間も入れろって言うから、想像して気絶しちゃったのですわああ!!!!」

「いやマジなんでこの人、世界を越えて来ちゃったのよ」

『そこに殿下への愛があるからですかね』

「いや黙って?」

 ミアの疑問にすかさず解答がなされるが、そういうの今はいらない。大騒ぎをしながら、気絶したセバスチャンは運ばれていったのだった。



 しばらく目覚めそうにないので、ゆっくり休ませてやろうと言ってアンネマリーは自室へと走って戻った。そしてクローゼットの中身を廊下に出し始めていたので、ミアは堪らず声を掛けた。

「え、お義姉様、何してるの?」

「セバスチャンのお部屋作りですわ!」

「いや客間が用意されるから大丈夫でしょ。公爵家のリフォームは許されないわよ? ここ倒壊したらいくら支払うかわからないからね」

「うーん、でもクローゼットだとまだ広過ぎるのですわぁ」

「聞いて。ねえ、お願いお義姉さま、私の話を聞いてちょうだい」

 公爵家から与えられているアンネマリーの部屋は広い。クライセン公爵夫人の反対はともかく、やろうと思えば二人か三人でも暮らせるけれども、アンネマリーが見ているのはクローゼットだった。

 まさかとは思うが、そこにセバスチャンの部屋を作る気なのだろうか。

「セバスチャンのお部屋は、狭くて暗くて狭い場所が良いのですわ。よくお部屋にこもって魔法を創造したり、ストロベリーちゃんの本を読んでるのでしてよ。ご飯を食べるのを忘れるから、差し入れではなくちゃんと食べさせてあげないといけないのですわぁ。数日おきに外に引き摺り出して、強い光を当てると転げ回るのでしてよ。面白いでしょ!」

「そんなんで良く皇太子の取り巻きが務まるわね」

 アンネマリーはともかく騒ぎを起こすし、目立つ。これが常ならば皇太子であった頃など、ただでさえ注目される立場であるのに、セバスチャンは耐えられていたのだろうかと疑問に思った。

「よくリュートがお世話してましたわ! あとリュートが分身の魔法を使えるので、セバスチャンの変装をして、私の側にいたのでしてよー」

「え、その間セバスチャンは何してるの?」

「お部屋にこもって、ストロベリーちゃんの本を読んでるのですわ。ラグナルス家や親戚からは、無駄飯ぐらいの穀潰しって言われてるのでしてよ」

「ここまで罵倒が正当なの初めて見たわ」

 取り敢えずミアは、使徒として逗留させてもらってるから、クローゼットは駄目よと、至極真っ当な意見を言ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ