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俺様>>侯爵家で遊ぶ

 今日も今日とて侯爵家の前を通るテオ団長に、クリスはお仕事頑張って下さいと声援を送った。

「今日もテオさまにお会い出来て、良い一日になりそうです! あのあの、独身と言われてましたけどぉ、お付き合いしている方とかいます? 侯爵家に興味とかってありません?」

「恋人とかはいませんが、すみません勤務中ですので長話は遠慮します」

「お仕事の邪魔してごめんなさいっ! あのそれで、お嫁さんとかもらう気ありますか?」

「いや本当にすみませね、お嬢さん」

 お嬢さんだなんてもうと、クリスが頬を染めて照れている。今のどこに照れる要素があるんだと、テオは心底疑問に思った。

 だがまあここで余計な一言を発すれば、さらに引き止められる事は必至。ならば気にしたらいけないと、テオは愛想笑いを浮かべ馬を進めた。

 クリスがぶんぶんと手を振る姿が見えなくなった頃に、一緒に来ていた副団長が声をかけて来た。

「いやはや、テオ団長も隅に置ませんな」

「はは、勘弁して下さいよ。…はぁ、何が良くて俺みたいのを」

「好かれるのは良いではありませんか」

「……いやね、女性の、あからさまに態度が変わるあの様が、俺はちょっと苦手なんですよ」

 深々とため息を吐きながらのテオの言葉に、副団長はおやと眉を動かした。

「それは……」


「それは随分とお子ちゃまなのですわねぇ!!!!!」


 副団長が何か言いかけた瞬間、頭上から声が掛かった。何奴と視線を上げれば、窓から身を乗り出した、いつぞやのやべえ女アンネマリーが居る。

「オーッホッホッホッホッホ!! 侯爵邸の正面玄関ではないからと油断してただろうですわ!!! 見回りルートは把握しているのだでしてよ!!! お前達の内緒話聞いてしまいましたわよおおお!!!!」

 高笑いするアンネマリーは、ビシっとテオを指差した。

「そこのお前! 好きな相手に好意を伝える姿が嫌だとは、とんだ贅沢者ですわねぇ!!」

「……贅沢者…。いや、俺はね、お嬢さん方が媚びを売る様な姿が苦手っていうか…」

「好きな相手に媚びを売らずして、一体いつ売る気なのかですわあああ!!! お前、好きな女が出来たとして、態度を変えない気ですの!!?? その他大勢と同じ態度でいますの!!!!??」

 あからさまに態度が変わるのが苦手だと思っていたが、言われてみれば自分だって好きな相手とは対応の仕方が違う事に気付き、テオは押し黙った。言い返す言葉が出ないのである。

「オーッホッホッホッホ!! ほらほらー、何か言い返して見るが良いですわ!! 媚びを売られるのが嫌なら、塩対応されるのがお望みなのかしらぁ!? ならば鉄仮面を被って日々を過ごすか、常に上半身裸で筋トレしてれば良いのですわ!!! イチコロですわよ!!!!」

「うるさいわね、アンタ!! 何がイチコロなのよ、お義姉さま。あ、やだぁもうぅ、騎士団の方々、お義姉さまがすみませぇん」

 ミアがアンネマリーを引っ張り込み、窓がバタンと閉まる。一体何を見せられたのか、テオと副団長は途方に暮れた。

 取り敢えず、ミアの塩対応と媚び媚びな態度の違いを見せられ、どちらが良いかといえば後者の方かもしれないと、テオは己の考えを改めた。あと女ってやっぱり色々怖いと、再度確信したのだった。


「まったくもう、朝っぱらから迷惑でしょ。…はぁ、それにしても媚びがどうとか言うけど、アンタだって誰に対しても態度変わらなくない?」

 何せアンネマリーである。誰に対しても傍若無人っぷりを発揮しているのだ。

 ミアの指摘に、アンネマリーは首を傾げた。

「そうなのかですわ。私、気に入った者とそうでない者とでは、ハッキリと態度が違いましてよ」

「え、でもさぁ。なんて言ったらいんだろ、フェリクス様と婚約解消したがってる割には、すっごく毛嫌いしているわけでもないじゃない。最初は殺しかけてたけど、それなりに話すでしょう」

「話しかけられても無視するだなんて、それこそお馬鹿さんのする事でしてよ。あと私、生まれとかそういうのであれはダメこれはダメって言う奴が、大っ嫌いなのですわ」

 根本的に相容れないと、アンネマリーは言った。

「あと心底大っ嫌いなのが、自分が世界で一番可哀想な私ちゃんって思い込んでいる奴ですわ」

 そのフレーズは何度か聞いた事があった。アンネマリーが時々話す、元の世界での婚約者だった令嬢だとかなんとか。

 生前のアンネマリーと境遇が似ているそうだけども。よくよく考えたら、新生アンネマリーの立ち位置は、元はフェリクスと同じではないのだろうか。

 もしやフェリクスを嫌っているのは同族嫌悪なのだろうかと、ミアは思った。

 しかしそれを指摘すると、アンネマリーは思い切り顔を歪めて言った。

「私、婚約者がいるのに他の女に手を出すのってあり得ないと思うのですわ。そういうの無理寄りの無理でしてよ!」

「それじゃどうして、夜会で婚約破棄なんてしたのよ」

「……そうでもしなければ、誰も私の話を聞かなかったからですわ。周りの連中はお馬鹿さんだから、可哀想な私ちゃんをまるで暴君に捧げる生贄みたいだと言っていたのでしてよ。それでも結婚を止めようともしない」

 腕を組んだアンネマリーは、元の世界での事を思い浮かべる。少しばかり記憶が薄くなって来てはいるが、元婚約者の令嬢に関しては気に食わない奴という事で、そこそこ覚えている。

 アンネマリーはそもそも気が合わないから無理と、早々に両親に話していたのに、強引に婚約を継続させられてたのだ。あちらもアンネマリーに対して思う事があるが、それを必死に堪えて付き合おうとしていたのだ。

 もうその時点で、信頼関係なんて築けないし、円滑な夫婦関係なんて不可能である。お互いに嫌がってるのに結婚だなんて、不幸な未来しか見えない。破滅がわかっているのに向かうのだなんて、アンネマリーとしてはあり得ない事であった。

「生まれで人を差別する考えをするなど、それこそ私の妻には相応しくないと言ってやったんですわ! まああの国の連中はお馬鹿さんばかりだから、私の言った意味を理解出来るのは、少数でしてよ」

 娼婦の娘だと蔑まれ続けてきたミアとしては、アンネマリーの言葉は、認めたくないけれど救われる気がする。

「超絶天才の私の考えを理解出来るのは、やはり天才だけですわぁ。はああ、天才とカリスマ性と高貴な血筋、全て揃っちゃってた私ってホント、最高の最高の最高で至高な存在ですわねえええ!!!!」

 いつもの高笑いをしているアンネマリーを、ミアは呆れた目で見つめた。


 ふとミアは気付いてしまった。


 貴族の人達は自分の生まれは特別であると思っているのを、常日頃からヒシヒシと感じるわけで。

 そんな人達が蔑む対象である娼婦の娘に対して、生まれで差別するなんておかしいと言い放つアンネマリーの考えは、受け入れられないのではないか、と。


 もしかしてアンネマリーが皇太子の地位を追われたのって、そういう理由もあったりして。

 考えただけでちょっと怖くなってしまった。だって今のアンネマリーがいるこの世界、この国だって、そういった考えは受け入れ難いと、ミアは身をもって知っている。

 皇太子という地位にいたのに罪人にされちゃうのなら、ただの伯爵令嬢でしかも、婚約解消という傷物になってしまったアンネマリーは、どうなってしまうのか。

 アンネマリー本人はまったく気にしている様子もないけど、かなり危うい立場にいるのではなかろうか。


 そんなミアの心配を他所に、アンネマリーはカリーナからアクセサリーを強奪もとい献上させていた。

「酷いわ! お姉さまのお友達が私の髪飾りを奪ったのよ!!」

「オーッホッホッホッホ!! 私の方が似合うから、貰って上げたのですわ!」

「そんな! 私の方が似合うもん!!」

「いいえ! 私の方が似合うのでしてよ!」

「私だもん!!!」

「私でしてよ!!!」

 言い争いは過熱しクリスが止めに入ると、どっちが似合うかと詰め寄った。

「うーん、今回はアンネマリーですね」

 クリスの判定に、アンネマリーは高笑いをする。

「うえええええんん!!! おがあざまあああ!!!!」

「オーッホッホッホッホ!!! ご自分の身の程を知ってから、出直して来ると良いですわあああ!!!!」

 今のところ五勝一敗でアンネマリーが優勢であった。勝った方がアクセサリーを己の物にするという、よくわからないルールで戦っていたのだ。

 カリーナも突っ掛からなければ良いのに、毎回アンネマリーに戦いを挑み続けている。

「なんだか段々、カリーナのセンスが磨かれていっているような気が…」

「私のセンスが良いばかりに、影響を与えまくっちゃってるのですわぁ! さあてクリス、今日は園遊会で着るドレスを選ぶのでしてよ!! 新しく作るには時間がないから、一部を私のセンスで飾り立てしてあげるのですわああ!!!」

「はい! ありがとうございます!!」

 ちなみにミアは国認定の聖女としてお披露目するので一式を国で用意してくれるそうだ。それを聞いた時、大事になってしまっていると遠い目をした。

 けどももっと大事になっているのは、アンネマリーの方である。アミルカル皇太子直々にドレスを贈って来たのだ。もちろんそれに対抗しフェリクスもまた、ドレスを用意したそうだけれども。

 どっちのドレスを着ても、何かしらありそうと、ミアは嫌な予感に怯えていた。


「園遊会当日は、ド派手な髪型で度肝を抜いてやるのですわ! やっぱり鳥の羽程度で飾るのではなく、孔雀一匹を頭に乗せて行くのでしてよ、クリス!!」

「それはやめてぇ!!!!」


 皇太子や公子の思惑より、まずはアンネマリーのセンスをどうにかしなければならないと、ミアは思ったのだった。

 

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