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俺様>>あたらしいへやのおそうじをする

 情緒がジェットコースター並みにアップダウンしているアンネマリーだが、元の世界でもこれが常だったので、特に問題はなかった。


 さてまず手始めに自身の部屋を、一番広くて大きい場所に変えた。もちろん、誰に了承を取ることもなくだ。

 なにせ新生アンネマリーは、自身が一番上だと思っている。自分の言う事を周りが聞くのが当たり前だと、息をするように思っているのだ。なので要望が通らないなんて事、考えないし、考えた事もない。


「今日からここを俺様…、わ、私の部屋とする!!!」


 一応、俺様という超絶格好良いハイセンスな呼び方は、令嬢には不釣り合いかもと思うくらいの知性はあったので、アンネマリーは言い直した。

 屋敷内で一番広い部屋、それつまり父親の居室である。もちろん、主寝室の天蓋付きの大きなベッドの上で、腕を組んで仁王立ちからの高笑いまではセットだった。

 ちなみに父親は仕事で屋敷におらず、義母は買い物に出掛けているので不在だった。使用人達もアンネマリーがどこで何をしようとも気にしていない。


 それ故、誰もアンネマリーの暴挙を止められなかった。


 自分の部屋である宣言をしたアンネマリーは、ご満悦でベッドから飛び降りる。部屋を決めたのであとは、もっともっとセンスある小物とか服とか色々と集めねばと思ったのだ。

「どれどれ引き出しの中身は、……なんだこの小瓶は。香水か? 趣味の悪い匂いだな。あ、これは大人の夜の時間に使うやつか。幼気なアンネマリーだったら直視出来ない代物だな。まったくアンネマリーの父親は、エロ親父だな。うわ、趣味悪っ、下着趣味悪いぃ」

 父親のプライパシーなどないとばかりに、アンネマリーは部屋の中を勝手に漁った。未成年の少女が見てはいけないものも多々あったが、中身は一応成人済であったので、問題はなかった。

 部屋を漁って出て来たのは碌なものではない。衣装部屋を見たが、趣味に合うものもなく、さらにはアンネマリーの体には合わない服ばかりで、微妙であった。

「何はともあれ、まともな服が欲しいな。ダサい服全部売り払って、私の服代にするかな」

 そうしようと、アンネマリーは衣装部屋にある父親の服を廊下へと放り出した。何せ元自室だったであろう部屋のクローゼットには、ダサくて地味なドレスしかない。

 男から女に変わったので、着る服がドレスとかスカートとかになるとはいえ、着飾れないのは苦痛でしかない。あと別に令嬢がズボンを履いてはいけないなんて法律はないし、皇太子だからってドレスを着てはいけない法律もない。

 着たいと思った服を着るのだと、アンネマリーは思っている。


「きゃああああっ!!?? な、何これぇ!!!??」


 廊下から叫び声が聞こえ、アンネマリーは何事かと部屋を飛び出した。まったく衣装部屋の荷物運びはまだ途中だというのに、一体どうしたことか。

「なんで、旦那様の衣類が廊下に!!?」

「誰が、誰がやったの!?」

 メイド達が騒いでいるのを見て、アンネマリーはなんだそんな事で騒いでるのかと呆れた。てっきり趣味の悪い父親の下着を見て、ショックのあまりメイドが気絶したのかと思ったのだ。人の趣味に口出しするのはどうかと思うが、しかし流石にあれはないなと思う下着だったのだ。

「騒がしいな、お前達。もう少し静かにしろまったく」

「お、お嬢様!? 何をしているんです、そこは旦那様のお部屋ですよ!」

「違う!!! ここは私の部屋だ!!」

 アンネマリーがそう叫ぶと、廊下にいたメイド達が怯んだ。なにせアンネマリーは、いつもオドオドビクビクとしており、大声を出した事なんてなかったのだから。

「え、でもアンネマリーお嬢様、そんな勝手にお部屋を変えたら、奥様に叱られてしまいますよ」

「別にお義母様の部屋と交換するわけじゃないし、問題ないだろう。どうせこの部屋、主人が不在で殆ど使ってないんだろ。だったらこの私が使っても良いじゃないか」

 問題しかないのではと、メイド達は言えなかった。新しい奥様の手前、表立ってアンネマリーを庇う事は出来なかったが、それでもその境遇には同情する者も多いのだ。

 そして廊下に運び出された衣装を見つけたメイド達は、比較的アンネマリーに対して優しく、そして貴族の娘への接し方を弁えている者達でもあった。それ故に、どうしようかと顔を見合わせた後で、アンネマリーの言い分を聞き入れる事にした。

「承知しました、アンネマリーお嬢様」

「ふん、わかれば良いんだ、わかれば」

 腕を組んでふんぞるアンネマリーに、メイド達は了承を伝えた。多分間違いなく、新しい奥様が小旅行から戻られたら大事になるだろうけれども、せめて戻ってくるまでは自由に過ごさせてあげようと思ったのだ。

 そんなメイド達の気持ちに気付くこともなく、アンネマリーは廊下に出した衣装類を売り払うように命じた。

「アンネマリーお嬢様、これは旦那様のものですので、勝手に売るのは流石に」

「趣味が悪過ぎるから、新しい服に入れ替えてやろうと思うんだ。見てみろ、これなんて酷過ぎるだろ」

「ちょっ…、キャアア!? 何コレ、何ですかコレ!? お嬢様、そんな猥褻物を持ってはいけません!!!」

「……はっ! ま、まさか…!! ねえちょっとローズ」


 ローズと呼ばれた赤毛のメイドに、茶髪のメイドがこそりと話し掛けた。

「もしかしてこの猥褻物を発見してしまったから、アンネマリーお嬢様は旦那様の名誉を守る為に売り払えと言ってるんじゃないかしら」

「どういう事、ラテ」

「よく考えてみて。あの大人しいアンネマリーお嬢様が、こんな大胆な事を突然すると思う? いきなり中身が別人になったっていうならわかるけど、そんな事あり得ないでしょう。ならお嬢様の行動の意味は、何か別のところにあると考えた方が良い筈よ」

「そ、そうね。あれだけ蔑ろにされても、旦那様の事を慕っていらっしゃったし。……ま、まさか、この衣装の山の中には、もっとイケナイ物が隠されていると…!!??」

「ええ、きっとそうよ。奥様にもお見せ出来ない、イケナイ物があるのよ。私たちメイドが見たら処分されてしまうような、恐ろしいものがきっと」

「な、なんて事なの。それじゃああの猥褻物は真のイケナイ物を隠匿する為?」

「ええ、ローズ。私たちがする事は、わかっているわね」

「もちろんよ、ラテ。速やかにイケナイ物ごと、業者に引き取ってもらい処分する事ね」


 ローズとラテの会話が終了し、それを見守っていたアンネマリーに一礼した。彼女達の会話はとんでもない勘違いだが、アンネマリーはやっぱり気付かない。そもそも気付いても、ダサい服を売り払うという行動を変える気はないので、まったくもって問題ない事である。

「アンネマリーお嬢様、さっそく手配いたしますね」

「こちらは私達が運んで置きます」

「うむ、頼んだぞ。あと、私の服を新調したいのだが」

「ドレスの新調ですか? 仕立て屋を呼ぶとなると、奥様の許可が必要になりますね。アンネマリーお嬢様とミアお嬢様のドレスの手配は、奥様に一任されていますので」

 予算は全て奥様がお持ちになってますと言われ、アンネマリーはふむと呟きながら思案した。アンネマリーは未成年なので、そういった管理は保護者がするのは、間違いではない。

 しかしながらクローゼットを見る限り、アンネマリーに与えているのはセンスが良いとは言えないダサいドレスばかりであった。伯爵令嬢ならもう少し、まともなドレスを着せた方が良いと思えるほどにだ。

「じゃあそれを売ったお金で、買うのはどうだ? 仕立て屋を呼ぶんじゃなく、街で買い物するくらいなら、出来るだろう」

「それなら、まあ大丈夫だと思いますけど。外出を制限されているわけではありませんし」

「さっそくこちら処分しましょう。すぐに馬車を手配してまいりますね」

 教育が行き届いているのか、メイド達はすぐに動き出した。ローズが出かける準備をと促し、外出着を用意して戻ってきた。あの小さなクローゼットに入っていた、アンネマリーにとって我慢ならないダサくてボロい服を持ってだ。

「これは着たくない。私には似合わないではないか、ダサくて地味で嫌だ」

「ですがアンネマリーお嬢様、…その、他の外出着もこういった色合いとデザインですよ」

 お嬢様がこれが良いと選んでいたドレスなのにと、ローズが言った。そうだったかと訊ねれば、はいと力強く頷かれる。どうやらアンネマリーのセンスは壊滅的であったようだ。

「今日から趣味が変わったのだ! ヤダヤダ、こんなの着たくない!!」

「そうは言いましても…。あ、そうだわ、それならミアお嬢様にドレスをお借りになったら如何でしょう」

 先程から名前がちょいちょい出てくるミアとやらは、アンネマリーの血の繋がらない妹のようだ。日記に書いてあった、アンネマリーの宿敵である。

 ともあれ今のアンネマリーは別人であるので、ミアに対して何かしら思う事はない。


「ミアお嬢様はもっとお義姉さまと仲良くしたいと言っておりますし。お優しい方ですから、ドレスも快く貸してくださりますわ」


 ローズの言葉に、アンネマリーはそんなわけあるかと思いつつ頷いた。お優しい方が、義姉の婚約者と恋愛関係になるのだろうか。

 アンネマリーの日記には、母親の形見を奪われたとあったし、さらには義妹に優しくしない意地悪な姉と噂を立てられていると、泣き言がツラツラと書かれていたのだ。なんでもお気に入りのアクセサリーやドレスを、アンネマリーが奪い取り破ったり壊したりしているとか。

 クローゼットの中に何にもなかったから、十中八九ミアの狂言だろうけども。メイド達に優しい方と言わせるくらい上手く取り繕っているようだ。

 まあともかく、本人がそんな事を言っているのならば、遠慮は必要ないだろう。アンネマリーはニヤリと笑うと、ローズを引き連れミアの部屋へと向かったのだった。

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