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俺様<<ミア、ミア、聞こえていますか?

「みんな、聞いてくれ! 此方が新たなる仲間、ミア嬢だ」


 ふと気がつくとミアは、見知らぬ場所に居た。周囲を見渡せば、種類の違う美形な男性に取り囲まれていたのだ。彼らは皆、ミアを見て喜ばしいような表情を浮かべ、拍手までしている。

 わけがわからなかったが、歓迎されているようなので、ミアは反射的に淑女の礼をして挨拶をした。

 そんなミアに、傍にいた黒髪の男性がうんうんと頷いている。そしてどうぞこれをと、細長い色付きの棒を渡してきた。

「あの、これは…?」

「これは魔法道具の一つで、振ると光る玩具です。まあ、我らには必須アイテムですがね」

「はあ」

 訳もわからず返事をするミアに、男性はあの方は派手好きですからと笑いながら言った。

「セバス、そろそろ来られるぞ」

「お、さあミア嬢。貴女も一緒にお迎えしましょうぞ!」

「えっ、誰を?」

 さあ振ってと急かされたが、ミアは誰が来るのかを男性に聞いた。すると先程セバスと呼ばれた彼が、ニッコリと笑いながら言ったのだ。

「殿下をですよ! さあ殿下コールをご一緒に!!」


「「「殿下! 殿下!!! 殿下!!!!!」」」


 セバスという名前を聞いた時点で、ミアは嫌な予感がして堪らなかった。セバスってセバスチャンのセバスなのかしら、と。

 美形の中にやたらと筋骨隆々でワイルドな男がいたのも、さらに嫌な予感をギュンギュンと加速させている。しかも殿下だとか、まさかと思ったその時、扉の向こうから笑い声が聞こえてきたのだ。


「ハーッハッハッハッハ!!!! 者ども、俺様の出迎えご苦労!!! 超絶格好良いこの俺様に出会えた事、感謝しまくるが良いぞ!!!!」


 声は男性のものだったけれども。

 このお馬鹿な超上から目線の物言いには、覚えがあった。だってミアは、毎朝聞いているのだから。


 いやそんなまさか、これってまさか。


 ミアが顔を上げてその顔を確かめようとした時、セバスと呼ばれた男性が叫んだ。

「殿下!! 新たなる仲間をお迎え致しましたよ!! ミア嬢です!! 彼女こそ殿下の忠実なるしもべ倶楽部会員No.6の地位に相応しい人材です!!!!」



「お断りよおおおおおおお!!!!!!!!」



 全力全開で叫んだミアは、ベッドから飛び起きた。そして周囲を見渡せば、あの美形の男性陣の姿は何処にもない。手渡された魔法道具とかいう光る棒もない。

 夢だったのかと、激しく鳴る心臓を抑えながら、ミアは大きく息を吐いた。嫌な夢だった。本当に嫌な夢だった。

 見慣れない部屋に、ここはどこだろうと見渡せば、手元に濡れた布が落ちている事に気付いた。どうやら額にのせられていたようで、さらにはミアのベッドにもたれ掛かって、アンネマリーが寝ていた。しかも寝言付きで。

「すぴ……セバスチャン…ふはは………りゅー…」

 原因はコレだろうなと、ミアは顔を引き攣らせた。そうしていると扉をノックする音が聞こえ、どうぞと言えばクリスが入ってきた。

「良かった、気が付かれたんですね、ミア」

「あの、私は一体どうして?」

「クマさんを撃退した後、倒れたんですよ。そして丸一日寝てたんです。ほら、もう夕方ですよ」

 えっと驚くミアに、クリスは軽めの食事を持ってきたと言って微笑んだ。

「ふふ、無茶苦茶で、本当に無茶苦茶ですけど、貴女のことを心配していたんですね。ずっと付きっきりで看病してましたよ、アンネマリーは」

 そうなのと驚くミアに、クリスはええと頷いた。ミアは思い切り顔を顰めて、俯いた。

 だってこういう時、どんな顔をすれば良いのかわからなかったし、自身の気持ちを言い表す言葉を持っていなかったからだ。居心地が悪いような、むず痒い何かがミアの中を駆け巡った。

 ミアの母は体を売っているから、病気になんて掛かるわけにはいかない、だからミアが熱を出したって、お金を出して人に世話を頼んで終わりである。見捨てられなかっただけ有難いのだろうけど。


「ご飯の匂いですわ!!!」


 ガバリとアンネマリーが飛び起きて、ミアの顎に頭突きを食らわせてきた。

「痛っ!! ちょっとぉ!!」

「あ、ミア、お寝坊さんですわね。さっさと起きてご飯にするのでしてよ!!」

「……まったく、もう」

 いつも通りのアンネマリーに、ミアは呆れつつもホッとしたのだった。


 クリスの持ってきたスープを飲んでいると、アンネマリーが凄まじいスピードでパンを食べていた。その姿は、少し前に見た完璧過ぎる淑女のマナーを見せたアンネマリーとは、まったく別人に見える程だ。クリスが少し呆れて見ているが、あの時アンネマリーが言った通り、こっちの方が一緒に食べていて気が楽に思えた。

「お二人とも、食べ終わったら院長さまが少しお話ししたいそうです。多分ですが、ミアさんの事で」

「私ですか?」

「ええ、……重要なお話です」

 何だろうと疑問を浮かべたところで、もしや中庭の修繕費用請求とかそういう件なのかしらと青褪めた。

「あ、あの、お金は全て義父のランセル伯爵にツケておいてください。子供の不始末は親がどうにかするものですし」

「さりげなく擦りつけてますけども、院長さまからのお話はそっちじゃないです」

「あ、そうですか」

「もう周りくどいですわねぇ。何の用事か言えば良いじゃありませんこと?」

 パンを頬張りながらアンネマリーが言った。するとクリスは少し躊躇った様子を見せたが、こればかりは私の口からはと話す気はないようである。

 モヤモヤしつつも食事を終え、アンネマリーと部屋で待つ事になった。

「もうハッキリ言って欲しいわ、気になって仕方ないじゃない」

「まあまあ落ち着くのですわ、ミア。何事も真実だけを語れば良い訳じゃないんですのよ」

 アンネマリーの言葉に、ミアは少しばかり驚いた。だってアンネマリーは嘘とか嫌いそうだと思っていたからだ。

「セバスチャンから聞いた実体験ですわ!」

「あー、ああ、お友達の…」

 先程まで見ていた夢によって、ちょっとばかり聞きたくない名前である。

「セバスチャンは、婚約者になるかもしれないご令嬢に、ちゃんと真実を話して婚約を結べないとお断りしたんですの」

 それは別に悪い事じゃないんではと、ミアは首を傾げた。しかしすぐに、令嬢の面目を潰すような、他に好きな人がいるとか恋人がいるとか、そういう事を言ったのかしらとも思った。親が決めた婚約の場合、そんな理由を言われたってどうする事も出来ないのだ。

「顔合わせのお茶会の席で、『僕は絵本の登場人物である魔法女海賊ストロベリーちゃんの絵姿にしか興奮できないんで生身の女性は無理寄りの無理です』って真顔で言ったらしくって、貴族女子から半径2m以内に近寄ってもらえなくなりましたのよ。もちろん婚約は結ばれなかったけど、捨て身攻撃過ぎたと落ち込んで居ましたわ!!」

「変態なの?」

「取り巻きの中では一番紳士的でしてよ。セバスチャンはその実体験から、時には嘘も必要ですって教えてくれたんですわ!!」

 それってどうなのだろうと、ミアは思った。というか偶に聞くアンネマリーのお友達は、ちょっと個性強過ぎである。以前聞いた時も、名前とちょっとした紹介だけでお腹いっぱいになったのだから。

 詳しくは聞いてないけど詳しくは聞きたくない。ミアは遠い目をした。


「失礼します、ミア、アンネマリー」


 ノックの後で、エル院長が入ってきた。体調はどうかと訊ねた後で、何やら意を決したように言った。

「もし動けるようならば、貴女について来てほしいのです、ミア」

 その顔があまりにも真剣であったため、ミアはこくりと頷いていた。

「ミアが心配だから着いて行ってあげるのですわ!」

 いつもは鬱陶しいアンネマリーの提案だけども、今回ばかりは有難い。だってエル院長が行きましょうと促したのは、修道院の裏手にある薄暗い森の中だったからだ。また森のクマさんに出会ってしまったらとビクつくミアの手を、アンネマリーがしっかりと握っている。

「この道は聖なる滝に繋がっています。かつて聖女さまがそこで身を清め、神託を受けたと言われている場所です」

 灯りを持って先導するエル院長が語り出した。一応、聖女と呼ばれた凄い人が昔は居たんだくらいの知識しかないので、ミアははあと間抜けな声しか上げれない。

「その神託を受けてからというもの、聖女さまは人が変わったように行動的になり、様々な知識を私たちにお与え下さったと伝わっています。…そして聖女さまは、その身に危険が迫ると、まるで何かに守られるように不思議な事が起こったと言います。…先日の貴女のように」

 倒れてくる木が突然方向が変わったのは、偶然にしては出来過ぎていたと、その場面を見たエル院長は言う。

「あの、それならお義姉さまじゃないですか?」

 いきなり性格が変わったとか、当てはまり過ぎる人物が真横にいるのだ。だがエル院長は首を横に振る。

「アンネマリーは既にお昼のうちに、滝で身を清めて貰いました。しかし特に何も聞こえなかったそうです」

「オホホホ、楽しい水遊びでしたわ!!」

「……もしあれが本当に聖女さまの起こす奇跡の力ならば、私は王宮へ報せなければなりません。この修道院が創設された時から取り決められた王族との誓約なのです」

 だから身を清めて神の声が聞こえるか試して欲しいと、ミアは言われた。滝の周りには、灯りを持った修道女達が並んでいる。

 ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだミアは、促されるがまま滝が流れ落ちるそこへと足を踏み入れた。

「足を滑らせるんじゃありませんことよ!!」

 アンネマリーがいらない声援を送ってきた。ミアは顔を引き攣らせながらも、冷たい水の中を歩いて滝へと近付いていく。

 さっさと済ませようと、滝に打たれながら手を組んで祈りを捧げた時だった。



『……ミア、ミア、聞こえますか。ああ良かった、やっと私の声が貴女に届いた』



 優しげな男性の声が聞こえてくる。まさかこれが神の声なのと、ミアは目を見開く。やだ私本当に聖女さまって事なの困っちゃうと、ミアの心が湧き立つ。


『会員No.6』


 その言葉を聞いた瞬間、ミアから表情が抜け落ちた。

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