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俺様>>女子トークをする

 メルボブン修道院は、王都から馬車で三時間ほど掛かる場所にある。メルボブン山脈の麓に建てられたその修道院は、厳しい修行をする事で有名であり、問題児とされた貴族の娘が送られる場所としても知られていた。

「修道院に入る場合、王都から出ている専用の馬車に乗っていかなきゃいけないって、ちょっと面倒ですわね。しかもオンボロ」

「ちょっ、ちょっと、お義姉さま、声が大きいから」

 ミアとアンネマリーの他には、誰も乗っていないボロい馬車に、遠慮なく文句を言った。御者をしている修道女には聞こえていない事を願いたい。

「えー、だってこの私が乗るのに、これはないでしょう! あ、そうだ、公爵家で余ってる馬車をもらいましょ。ちょっと、そこのお前!!」

 荷馬車に幌を被せ無理やり座席らきし物が付いただけであるので、アンネマリーが身を乗り出して修道女を呼び止めた。

「えっ、あ、はい、何でしょう」


「この馬車ボロいから、公爵家から新しいのを貰うのですわ。どうせ使ってないの沢山あるから、好きなの選んで良いですわよ。二台でも三台でも貰うのです!!!」


「えっ、えっ、え!?」

 困惑する修道女に、アンネマリーが詰め寄る。その様子を見て、そもそもなんでアンネマリーが、公爵家の私物を好き勝手に寄付しようとしているのか。まあアンネマリーだし仕方がないかとミアは思った。そしてクライセン公爵夫人は、たぶんそれを許しちゃうんだろうな、とも。

「あの、とっても有難い申し出なんですけれど。その、この馬車、買い出しにも使ってるので、貴族様が使うような物だと、荷物が乗り切らないかなぁ、なんて」

「そんなの知りませんわ! 上げると言ってるんだから、貰えば良いのでしてよ!!!」

「嘘でしょ、押し売り!?」

「売ってませんわ! 贈呈品でしてよ!!」

「お義姉さま、迷惑掛けてるから、ね?」

 喚くアンネマリーを抑えて、座席に座らせる。ホッと息を吐いた修道女が、じゃあ行きますねと再び馬車を動かし始めた。のだが、アンネマリーがまだ着かないのかと言い出した。

「まだもなにも、出発して少ししか経ってないじゃない」

「だってぇ、何にもないんですもの。こういう時、セバスチャンとかイラリオンが面白いお話をしてくれたのですわ。あの二人はいないし、…ミア、何か面白い話でもなさい」

「アンタ本当に我儘よね。景色でも見てれば」

「前を見ても後ろを見ても、道しかないじゃないですの。あ、そうだ!」

 今度はなにを思い付いたのかとアンネマリーを見れば、再び御者席へと身を乗り出していた。

「私も馬車を走らせたいのですわ! そこのお前、手綱を貸せでございますのよ!」

「えっ、それはちょっと」

「お義姉さま、迷惑掛けてるから!! 本当に座ってなさいよおおお!!!! 修道女さまもごめんなさいねぇ!!」

 無理やりアンネマリーを抑えて、ミアは再び座席に座った。そして大きく息を吐いて、まさかこれが修道院に着くまで、いや修道院に着いてからも続くのとゾッとする。


「…公爵家での暮らしはまだまだ序の口だったの? ……ローズとラテが居たから、抑えられていたというの? 一人で修道院なんて行きたくなかったけど、これ一人の方がマシだったってわけ?」


 ミアの疑問はすべてイエスで答えられるが、そんな答えを彼女は望んでいなかった。頭を抱えるミアに対し、アンネマリーはいつの間にかトランクからお菓子を取り出して食べている。

「ミアにもちょっと分けてあげますわ。そこのお前にも! ほら有難く食べるのですわ!!!」

 再び御者の修道女の邪魔をしにいったアンネマリーに、ミアはやめなさいよと取り押さえた。突然焼き菓子を押し付けられ困っている修道女は、ホッと息を吐く。

「本当にさっきから、お義姉さまがごめんなさい」

「いえ、別に構いませんよ。ふふ、仲の良い姉妹なんですね」

 そう見られるのはちょっとと、ミアは顔を引き攣らせた。

「そういえばお前、名前はなんていうのですの?」

「え、私ですか? …クリスと言います」

「ふうん、クリスは修道院では下っ端ですの?」

「下っ端…、ええと、まあはい、そうですね。雑用とか新しく入る子のお世話とかしてます。お二人は体験コースなので、二週間程の付き合いですけど、よろしくお願いしますね」

「オホホホ、殊勝な態度ですこと! 気に入りましたわ!!! 宜しくして差し上げても宜しくてよ!!!!」

「あっ、はい」

「お義姉さまのこれは病気だと思ってください」

「あっ、…はい」


 ミアの言葉に、クリスが苦笑して頷いた。ミア達よりは年上のようだが、クリスはまだ若く見える。そしてどことなく垢抜けているので、自ら志願して修道女になったとは思えない雰囲気だった。

「あの、クリスさんも貴族の方ですか?」

「……ええ、まあ。でも家族からは修道女になって生きるようにと言われたので、実家とは縁を切っています」

 修道院に送られるくらいだから訳ありかあとミアは思った。思ったが口に出さなかったのに、菓子を差し出したアンネマリーがあっさりと、家を追い出されたくらいやらかしたのかと聞いている。

「アンタねえ、そういうのは…」

「ええ、でも気になるんですもの。何、何やっちゃったんですの? ちなみにミアは義姉の婚約者と恋仲になって、相手のお家にバレたんですの」

「言いふらすんじゃないわよぉぉぉ!! アンタは屋敷を倒壊させたじゃない!!」

「オホホホ、リフォームと言いなさいませですわ!!! それでクリスはお屋敷を破壊したついでに、婚約者とかその辺と痴情のもつれから流血沙汰になりましたの?」

「そこまではしてませんからね!!」


 クリスは全力で否定した。実家では散々言われてきたクリスであったが、ここまでの問題児よりヤバい奴だとは思われたくなかったのである。というか屋敷が倒壊って何がどうしてとか、義姉って貴女のことなのに怒ってないのとか、色々と疑問が湧き上がる。

「私はその、……婚約者の方とうまくいかなくて、最終的に解消されてしまって。不出来な娘だと言われ修道院に」

「不出来な娘だと修道院に入らなきゃいけないんですの?」

「私の家はすごく体面を気にするので…。妹の縁談に影響があってはいけないと」

「ええー、婚約者選びって親がしたのなら、親の責任じゃねーかでしてよ。不出来を責めるなら、親が修道院行き決定ですわ」

 ボリボリと焼き菓子を食べながら、アンネマリーが言った。その顔を見て、そうでしょうかとクリスが不安げに訊ねる。

「私が婚約者の方に、気に入ってもらえなかったのは事実ですから」

「何したんですの? 護衛の股間とかヒールで蹴りまして?」

「そんな事する貴族の娘がいるんですか!?」

「目の前にいるのよ、クリスさん」

 そこまではしていないと、クリスは首を横にブンブンと振った。


「私には兄と妹が居て、…その私だけが家族から嫌われていたんです。それでも一応婚約者がいたんですけど、兄の友人で、会った時から不細工って言われて嫌われていたんです…」


 ミアはクリスをまじまじと見た。別に不細工じゃないし、どちらかといえば美人だろう。まあ自分よりは劣るけどもと思っていると、その横でアンネマリーが私よりは下だけど美人でしてよと褒めていて、ミアは自己嫌悪に陥った。


「ははーんでしてよ。私、超絶天才ですから、わかってしまいましたわ。クリスのおうちは財政難ですわね!!!!!」


「えっ、一般的な貴族の家だと思ってたんですけど…」

「これだから世間を知らない小娘は、ですわぁ。オホホホ、体面を気にする家なら、お金がないだなんて悟られたくないのですわ!! 見栄ですわね、見栄!!! 兄の友人たる婚約者は仮初で、最初から解消前提ですわ!!! そのうち、家族が迎えに来るに決まってますわ! 金持ちの爺に嫁がせにね!!!!!」

 そんな事あるかとミアは胡乱な目でアンネマリーを見たが、よくある事なのでしてよと頷いている。言われたクリスの顔色は真っ青だ。

「え、そんな事、…でも、あの両親と兄なら、…あり得る…」

「まあまあ爺の良い所はすぐ死ぬと思うでしょうけど。若い嫁を貰いたがる爺さんって、結構長生きしてしぶといのですわ!! 六十代以上じゃなきゃという娘じゃなければ、中々厳しいですわね。クリスは何歳までが射程圏内でして?」

「えっ!? えっ!!?? そんなはしたない事をいえません…」

「なるほど、歳上ではなく歳下好きなんですのね!! もしや可愛らしい男の子を侍らすのがご趣味でして?」


「違います!! 同世代かせいぜい三歳差くらいで!!! 私より身長が高い引き締まった体型で、精悍な顔立ちの男性が好みです!!!!!」


 ここで引き下がってはまずいと、クリスは大声で叫んだ。ヤバい奴らにヤバい奴認定だけは避けたかったのだ。

「ほほう、なるほどなるほどですわぁ。うーん、サシャとかシードとか紹介してあげたいけれど、ここにはいませんものねぇ」

 サシャはやめといた方が良いのではとミアは思った。いや見た事ないけど。アンネマリーの元の世界の取り巻きは、選択肢に入れてはいけないと思うのは気のせいじゃないとミアは思った。

「そういうアンタはどういうのが好みなのよ」

 ふと思い付いて、ミアは試しに聞いてみた。中身は成人済の男性だろうけども、段々と女の子っぽくなって来ているから、もしやアンネマリーが演技をしている可能性も出て来てしまったからだ。

「………、考えたことがなかったですわ。あ、でも」

 アンネマリーはポカンとした顔をした後で、己の胸を両手で抑えて言った。


「ここで好きって感じた人が、好きな人だというのは、知ってましてよ!!!」


 思ってた以上に乙女な返答に、ミアもクリスもちょっと赤面してしまったのだった。

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